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財産管理のトラブル事例と利用できる制度

認知症になると預貯金の解約や不動産の売却、介護施設の契約ができなくなります。高齢の親と離れて暮らす場合、特殊詐欺や金融商品のトラブル、訪問販売による高額な買い物などのリスクがあります。

日本では1999年の民法改正により、2000年から成年後見制度が始まりました。これは、認知症や知的障害、精神障害で判断能力が低下した人を保護する制度で、家庭裁判所が後見人と後見監督人を選任します。後見人は本人に代わって財産管理を行い、後見監督人がその管理をチェックします。

利用者は増加していますが、「後見人による財産の使い込み」などの問題もあります。

■事例:認知症の母の財産を長男が使い込んだ
認知症の母の財産管理のため、長男が後見人となりました。同居を始めた長男一家は、母の財産で家族旅行や長男の子の学費、自動車の購入などに費用を使っていました。

法律では、後見人は本人の財産と自分の財産を明確に分け、「自分の財産を管理するのと同等の管理をすること」が求められています。義務を怠ると賠償責任が生じます。このケースでは、長男に賠償能力がなかったため、後見人を解任され、長女が後見人となりました。

対策として、親の財産管理を任されたら、その事実を他の親族に説明しましょう。財産の一覧表を作成し、入出金記録と領収書を保管し、親族と共有します。

財産管理は契約によって権利、義務を明確にするとトラブルが減ります。次に、財産管理制度を紹介します。

■成年後見制度
成年後見には法定後見と任意後見があります。法定後見は本人の判断能力が低下したときに家庭裁判所が法定後見人と監督人を選任します。

任意後見は、判断能力が低下する前に後見人を決め、公正証書で契約します。判断能力が低下すると家庭裁判所が監督人を選任し、効力が生じます。

■財産管理委任契約
成年後見制度は判断能力が低下してから有効になりますが、今のうちに財産管理を任せたい場合は「財産管理委任契約」を利用します。契約は公正証書でなくても構いませんが、任意後見とセットで公正証書で契約するのが一般的です。

財産管理委任契約には監督人がいないため、判断能力が低下すると使い込みのリスクがあります。そこで、任意後見とセットで契約し、判断能力が低下したら任意後見に切り替えます。

■家族信託
成年後見も財産管理委任契約も、本人が亡くなると終了します。家族信託は、判断能力が低下する前後や本人が亡くなった後も、一貫して財産管理を決めることができます。

家族信託の例として、「自宅を長男に管理させ、介護施設に入所後に自宅を売却または貸すなどの判断を長男に任せる。亡くなった時は売却代金を長男6割、長女4割で分割する」などの契約ができます。

しかし、専門家が少なく、契約書類作成には費用がかかります。今後、専門家が増えれば普及する可能性があります。

■まとめ
親の財産管理は「相続の前哨戦」ともいわれ、相続にも関わる重要な問題です。親の財産管理は、判断能力があるうちに「財産状況の把握」と「本人の意向の確認」が必要です。判断能力が低下するとどちらも困難になります。判断能力低下後に利用できる制度は法定後見のみです。法定後見では、親族でない専門職が後見人となることが多く、空き家の売却などが難しくなります。判断能力があるうちに任意後見、財産管理委任契約、家族信託などの選択肢を検討しましょう。
 

中山 浩明(なかやま ひろあき)

CFPファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 主任研究員

公開日: 2024年07月18日 10:00