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台風で隣家のモノが飛んできて自宅のガラスが割れた…どうする?

2019年(令和元年)9月9日に関東地方に上陸し、千葉県内を中心に甚大な被害をもたらした令和元年房総半島台風(台風15号)の強風により、千葉県市原市のゴルフ練習場のネットを支える鉄柱が倒壊した事故が起こっています。

倒れた鉄柱により周辺住宅約20棟が被害を受け、負傷者も出るなどの問題で地域住民とトラブルになりました。当初ゴルフ練習場側は弁護士を通じて、自然災害であるため近隣住宅への被害に対する賠償には応じない方針を伝えていましたが、当時は報道の過熱もあり全国からゴルフ練習場側の対応への非難が集中し、最終的にはゴルフ練習場側が土地の一部を売却して得られた資金を補償に充てるなど、災害ADR(裁判外紛争解決手続)による解決が図られ、2020年末には被害住民と和解が成立したようです。ゴルフ練習場のオーナーは土地の売却で足りない分は私財を投じて補償したそうですが…果たしてそれ以外に解決の道はなかったのでしょうか?

自然災害の加害者とは?
当時の報道ではゴルフ練習場側を「加害者」、近隣住民を「被害者」とし、ゴルフ練習場のネットの在り方を問題にしていましたが、ご自身が「加害者」または「被害者」となったらどうなるのでしょうか?

たとえば、台風で建物の屋根が飛んでしまい、その屋根が隣家に当たり窓ガラスが割れてしまった場合、自宅の屋根が飛んだ側だったら?または、その飛んできた屋根で自宅の窓ガラスが割れた側だったら?

屋根が飛んだ側は加害者で、窓ガラスが割れた側は被害者でしょうか?もちろん窓ガラスが割れた側は被害者ですが、屋根が飛んだ側も台風の強風で屋根が飛んだ被害者ではないでしょうか?

原則として自然災害に加害者は存在しません。屋根が飛んだ側が加害者になるには、その住宅の保存上の瑕疵がなければなりません。つまり、通常の使用における状況で、屋根が飛んだとしても加害者にはなり得ず、法律上の損害賠償責任が発生しないことから、法律上の損害賠償責任に対して支払われる個人賠償責任保障(または日常生活賠償保障など)に加入していても、相手側に対して共済金や保険金は支払われません。

火災保障は単独で請求できる自己防衛手段
火災保障や自然災害に対する保障は、自宅が補償対象となる被害に遭った場合、保障加入者からの請求に基づき給付がされます。風災が補償対象であれば、どこから飛んできた屋根によってガラスが割れた場合でも補償されますし、相手を特定する必要もありません。

また、火災保障は自分の加入する保障から給付を受けても、自動車保障のように等級が下がり掛金が上がることもありませんから、損得を考えるまでもなく請求して良い保障です。

自己防衛には知識と備えが必要
市原市のゴルフ練習場のケースでは、近隣住民も報道する側も、全国からゴルフ練習場側に避難を浴びせた人達も、自然災害時の賠償責任について知識や理解が不足していたのは事実でしょう。実際に火災保険や共済に加入している方でさえ、加入時にそのような説明を受けておらず、同様の事例で状況に関わらず金銭を支払った人や請求した人は多いようです。

法律上の賠償責任が発生しない以上、「加害者」にされてしまったときは知識で対抗するしかありません。「被害者」になった場合は、ご自身が加入する保障が守ってくれます。

一般的な火災保険では風災が補償の対象となっているかを確認してください。また、都道府県民共済は風災時に10万円以上の損害に対して最高600万円の補償である点に注意が必要です。こくみん共済 coopの場合は自然災害共済が風水害を補償対象としているため、火災共済に加えて自然災害共済にも加入しているかを確認しましょう。

市川 貴博(いちかわ たかひろ)

CFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 事務局長

日本FP協会静岡支部 幹事

公開日: 2024年08月08日 10:00