独身者が終身の死亡保障に加入すべき理由
独身者(単独世帯)にとって死亡保障は不要と考える人も多いでしょう。「自分が死んでも遺族がいないから誰も困らない」という理由が一般的です。保険や共済の専門家にも「独身者には死亡保障は不要」と論じられる方が多いのも事実です。
しかし、「遺族のため」ではなく、「自分のため」に終身の死亡保障が必要となる場面が多いのです。今回は、独身者が終身の死亡保障に加入するべき理由について詳しく探ります。
1.老親介護を経験すると、自分の老後に対する不安が増す
独身者が中高齢に差し掛かると、老親介護で仕事との両立に苦戦する機会が増えるとともに、自分の老後の生活に対する不安要素が増してきます。特に、身体的に衰えたり、認知症などを患ったりする場合、財産の管理や日常生活のサポートを誰に頼るのかが大きな問題になります。
それが老親の介護であれば、自身がサポートをできたかもしれませんが、独身の自分が介護状態になったとき、そのサポート役を担える人が非常に限られています。現実問題として、私どもの講演では「甥・姪に面倒を見てもらうためにはどうすれば良いか」「その代わりに、自分の財産は甥・姪に相続させてあげたい」という質問が増えています。
これらは口約束しているだけでは、残念ながら叶わないケースが大半です。なぜなら、自分の遺産を甥・姪に届けるためには、次のケースに限られるからです。
(1)親や祖父母など、直系尊属がすべて亡くなっている
(2)甥・姪の親(自分からみれば兄弟姉妹)も亡くなっている
しかも、他の兄弟姉妹にも相続の権利が生じるので、相続させたい甥・姪に絞るためには、その甥・姪だけが遺されている場合に限られてしまいます。そこで、生きている間に遺言書を用意し、甥・姪に相続させる旨を書いておく必要があります。読者の中にも口約束をしている方がいれば、すぐに遺言書を用意するようにしてください。
2.2,000万円を用意できるか
では、甥・姪に相続させることを条件に老後の面倒を見てもらおうとすると、いくらくらい用意しておけばいいでしょうか。私共の講演で甥・姪に相当する参加者にいくら欲しいかを聞いてみると「2,000万円くらい」といわれるケースがほとんどです。その理由は「いわゆる老後資金2,000万円問題に介護の費用も加わるのだから、最低でもそのくらいは欲しい」というものが一般的ですが、さて、読者の皆さんはそれだけの財産を遺してあげられるでしょうか。
「そんな大金があるわけないじゃないか」という読者に結論です。まさに、終身の死亡保障はこのような独身者に有効に機能します。保険金・共済金を親族や友人に遺すことで、生前の支援を依頼しやすくなり、自分が亡くなった後にもしっかりと備えられるようになるからです。
親族が将来の介護や見取りを引き受けてくれることを期待する場合、その対価として死亡保険金・共済金を遺すことは有効です。受取人として親族や友人を指定しておけば、「私がもし認知症を患ったら、介護施設の手配や日常生活のサポートをお願いしたい。その代わり、私が亡くなった際にはこの保険金・共済金を受け取って欲しい」といった形で、経済的なインセンティブ(報奨)を提供できるので、サポートの依頼がしやすくなります。
3.受取人は必ず指定する
ここで大切なのは、死亡保険金・共済金が受取人として指定された方固有の財産として扱われる点です。遺産分割の対象ではなく、受取人として指定された方が確実に受け取れるお金という意味で、「死亡保険金・共済金には名札がつけられる」と覚えておいてください。
受取人の適切な指定は、生命保険・共済の契約において極めて重要です。特に、独身者や家族が少ない場合、受取人をしっかり指定しないと、保険金・共済金が望まない形で分配されるリスクがあります。受取人の指定には、法律的な影響や相続税の考慮が必要なのにもかかわらず、共済団体によっては終身死亡保障でも「受取人を指定しない」という契約ができてしまうので留意が必要です。どういう理由であれ「受取人を指定しなければ保障の意図が達成できない」と覚えておいてください。
また、時間の経過とともに家族構成が変わるもの。相続の権利を有する人(法定相続人)も変わっていくので、定期的に受取人を見直すように推奨します。
4.税金の軽減と相続対策
終身の死亡保障は、相続対策としても非常に有効です。独身者の場合、相続人が限定されるため、相続税の負担が大きくなる可能性がありますが、死亡保険金・共済金は一定の非課税枠が設けられています。法定相続人一人につき500万円の非課税枠があるため、保険金・共済金をうまく活用すると相続税の負担を軽減できます。
不動産や株式など、分割が難しい財産を持っている場合、死亡保険金・共済金を利用して相続人間での分割や遺産分割を調整できます。これにより、相続人間のトラブルを避け、スムーズな相続手続きが進められるようになります。
また、自分の葬儀費用や未払いの債務を他者に負担させないようにしたいものです。終身の死亡保障を活用すれば、他人に迷惑をかけずに済むなど、精神的な安心感も無視できません。自分がもしもの時に備えているという安心感は、日々の生活をより豊かにするでしょう。保険や共済の存在が、自分や周囲の人々への責任感を果たす手段となり、より健全な老後生活を送るための重要な要素となるはずです。
独身者は増え続けているため、終身の死亡保障に加入する理由はますます高まるでしょう。昨年から国内生保各社の一時払終身保険の予定利率が引き上げられ、今後、共済団体も引上げが続く見込みです。保険料や共済掛金がこれまで以上に安くなるため、独身者にとっては資産形成のツールとしても役立つはずです。
塚原 哲(つかはら さとし)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所®長野 所長