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成年後見人が必要となる場面

厚生労働省が20151月に公表した全国の認知症患者数は、2012年時点で約462万人となっています。また、同時に公表された将来推計では、認知症有病率を一定とした場合で、2020年に602万人、2030年に744万人と増加が予想されており、多くの人にとって、身近な問題として向き合う必要性が高まっているといえます。

■成年後見人とは
認知症患者の増加に伴って意識せざるを得ないのが、判断能力が失われた人の生活や権利をどのように守っていくかという問題です。

日本では
20歳未満を未成年と呼び、十分な判断能力が無いとして、親をはじめとした保護者がその権利を守ることになっています。
成長して
20歳になると、自分の行動には自分で責任を負うようになりますが、一方で、70歳、80歳、90歳…と歳を重ねていくと、認知症などによって十分な判断能力が無くなるケースもでてきます。また、認知症に限らず、知的障害や精神障害などの理由によって判断能力が不十分な方もいらっしゃいます。
そこで、こうした成年を守る制度として成年後見制度があり、保護者としての「後見人」をつけることができます。文字通り、判断能力を欠いた本人を「後ろから見守る人」です。
なお、成年後見制度には、判断能力の程度などに応じて、「後見」のほかに「保佐」と「補助」の制度が定められていますが、今回は後見だけを取り上げます。

■法定後見と任意後見
では、実際に判断能力を欠く状態となった際、誰が保護者である後見人になるのでしょうか?これを理解するために、まずは「法定後見制度」と「任意後見制度」を知る必要があります。
法定後見制度は、精神上の障害等により本人の判断能力が不十分となった場合に、親族などの一定の申立権者が、後見人の選任を家庭裁判所に申し立てる制度です。判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の
3種類があり、それぞれ後見人、保佐人、補助人を選任します。
つまり、法定後見制度のポイントは、①本人はすでに判断能力が不十分な状態である、
②後見人は家庭裁判所が決める、という点です。「家族の私が後見人になる」と思っていても、家庭裁判所が認めなければ後見人にはなれないのです。

一方の任意後見制度は、将来自分の判断能力が不十分になった時に備えて、あらかじめ契約によって代理人となる人(=任意後見人)を選んでおく制度です。後見人としての効力が発するのは、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された後となります。
こちらは、①本人が元気なうちに将来に備えて後見人を決めておく、②後見人になる人は、自由に選ぶことができる」という制度です。なお、任意後見契約は必ず公正証書で締結する必要があり、後見人をチェックするための「後見監督人」は、家庭裁判所が選任します。

■後見人が必要な場面
では、実際に後見人を立てるケースはどのくらいあるのでしょうか?
最高裁判所事務総局家庭局がまとめた、「成年後見関係事件の概況」によると、
2016年の成年後見の申し立て件数は34,249件。これは前年比1.5%の減少で、この5年間はほぼ横ばいの数字となっています。ちなみに、後見人の申し立て動機として一番多いのは「預貯金等の管理・解約」です。動機は1つとは限らないとはいえ、申し立て全体の約82%を占めているため、「財産管理」がきっかけになっているのは明らかなようです。
さらに、相続が発生した時は、後見人の申し立てが不可欠となります。認知症や知的障害、精神障害等により意思判断能力のない相続人は、そのままの状態では遺産分割協議に参加できないからです。
その時に困るのは、成年後見人の選任には時間がかかるという現実です。実際の審理期間をみますと、
1か月以内が45.5%で一番多いものの、1か月超2ヶ月以内が31.9%で、3ヶ月超のケースも10.6%あります。全体の1.7%は、成年後見人選任までに6ヶ月超の期間を要しています。
ちなみに、日常生活のサポートという点で、子を中心とした親族が後見人になるケースがありますが、相続の際には後見人として行動できません。例えば、父が死亡し、認知症の母とその後見人である子が相続人の場合、母と子が利益相反の関係となるからです。この場合、相続手続きのための「特別代理人」の選任が別途必要となります。
成年後見制度の利用者数は累計
203,551人で、認知症患者数(462万人)から見るとまだまだ少ないと言えそうです。今後に備えて、まずは制度の概要をしっかり押さえておきましょう。


栗本 大介(くりもと だいすけ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
株式会社エフピーオアシス 代表取締役
公開日: 2017年09月28日 09:08