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最近のマーケット状況に耐えられる?投資ビギナーはどうするべきか

連日の猛暑、南海トラフ地震、台風、大雨など、8月からお盆にかけて、天候や災害に振り回される2024年の夏。マーケットも荒れ気味です。
8月2日、5日と日経平均株価は、歴史的な急落に見舞われ、特に8月5日の日経平均株価は1987年10月27日のブラックマンデーを上回り過去最大の下げ幅となる4451円安。下落率もブラックマンデーに次いで12.4%となりました。
そして、翌6日は過去最大の上げ幅となる3,217円高と、まるで、ジェットコースターのような乱高下ぶりです。
同時に、為替市場も円高が進み、5日の円相場は1ドル141円台で、約7か月ぶりの円高ドル安水準となりました。
私は、ちょうどこの時期、海外留学に行く娘の学費を送金したばかり。7月下旬に振り込んだとたん、あれよあれよという間に円高になっていくではありませんか。
今後、円高に振れると思ってはいたものの、これだけ急激に進むとは予想しておらず。期日が迫っていて仕方がないとはいえ、もうちょっと待っていればと、さすがに、臍を嚙みました。

「資産運用は長期、積立、分散投資が基本」を本当に理解できていた?
この市場の動向を受けて、FPとして気になるのは、今年1月からの新NISAで投資を始めたビギナーのみなさんの行動です。最近投資を始めた方の多くは資産残高がマイナスになり、動揺した方もおられたでしょう。
ネット上では、「含み益がなくなった」「怖くなって投資をやめた」などの声も散見されました。そして、さまざまな専門家の意見も入り乱れ、今後、投資や積立を継続すべきか、やめた方が良いのか、お悩みの人も少なくないと思います。

私のお客さまの多くは、「資産運用は長期、積立、分散投資が基本」と理解された上で投資を始めておられます。また、株式や投資信託など収益性商品には、価格変動リスクがありますので、その方のリスク許容度以上の投資を勧めることはまずありません。数千万円の貯蓄があっても、投資ビギナーの場合、購入時期を分散させる意味でも、少額からはじめて、‘慣らし運転’をしてもらいます。
そして、そもそも、「評価額が下がってしまうと、気になって夜も眠れない」というような人は、投資に向いていないのです。
 今のところ、「どうしたら良いですか?」といったお客さまからの問い合わせは来ていませんので、積立を継続しておられるのでしょう。

「横並び行動バイアス」が強い若年層の投資家
 そして、今回の下げ相場で、とりわけ、若年層の投資ビギナーの動きが気になります。
 なぜなら、最近投資を始めた多くが若年層であり、彼らは、相対的に金融リテラシーのレベルが高くないからです。
また、金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査2022年」によると、若年層は、「横並び行動バイアス」が他の年齢層に比べて強い傾向にあります。
横並び行動バイアスとは、他人の意見に流れやすいということ。具体的には、「類似する商品が複数あるとき、自分が『良い』と思ったものよりも、『これが一番売れています』と勧められたものを買うことが多い」という質問に対し、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した割合が18~29歳の場合、男性26.9%、女性26.0%と、男女ともに他の年代と比較して、最も高くなっています。
つまり、金融商品の知識がほとんどないまま、SNSなどのインターネット上の情報を鵜呑みにして、「みんながやっていて良さそうだから何となく」という理由で投資をスタートさせている可能性が高いのです。
一般的に、横並び行動バイアスは、年齢があがるにつれて低くなる傾向があり、同調査で最も低かったのは70歳代の男性10.8%、女性12.9%でした。

投資は「WHAT」よりも「WHY」が重要
 今回、実際に損を被った人もいらっしゃるでしょうが、売却や解約等をしないのであれば、含み損を抱えるだけ。売らずに価格水準が戻るのを待てばよいのです。
 むしろ、このようなことは投資を続けていればよくある話で、ポジティブにとらえるなら、投資を始めたばかりで投資額が多くないうちに、株価が下落と上昇を繰り返しながら市場回復の動きを実感できるのは良い経験になったはずです。今後も資産運用をする上で大きな財産になるでしょう。
 そこで必ずしておきたいのは、投資をした銘柄が下がった背景をちゃんと理解することです。「横並び行動バイアス」が高めの人は、人気やランキング上位の銘柄(WHAT)を選びがちですが、それよりも、投資はその銘柄を選ぶ理由(WHY)を明確にすることが肝心です。
今回の下落によって、投資している銘柄が、自己のリスク許容度(どこまでリスクを取れるか)に合っていなければ、見直す必要があるかもしれません。
その上で、投資を継続するかどうかの行動力も重要です。
つまり、これからの資産運用には、金融に関する正しい知識を身に着ける「金融リテラシー」だけでなく、粘り強く積立を継続させるスキル=「金融コンピテンシー」も不可欠だということです。

日本国民の金融リテラシー向上につながるかJ―FLECが本格稼働
 ただ、金融に関する専門的知識がなければ、見直すべきかどうかも良くわからないという人も多いでしょう。それを後押しするのが「金融ケイパビリティ」です。
これは、外部リソースやサポートを活用するスキルを意味します。
例えば、私たちのようなファイナンシャルプランナー(FP)など専門家のアドバイスや、家計簿アプリなどのデジタルデバイス活用を言います。

 今年8月から、国や日銀、全銀協、日証協、投信協など民間団体が出資して設立された「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」が本格的に活動を始めています。
柱となるのは、公平中立な立場で個別相談や講演等を行う「認定アドバイザー」の設立です。認定アドバイザーになれるのは、金融機関に所属していない、CFP、AFPなどの資格を有するJ-FLECが定める認定要件に合致して所定の審査を通過した個人です。
新聞報道等では、同機構認定アドバイザーは当初500人規模の認定が見込まれ、「早期に1000人体制をめざす」とあります。
 同じFPとしては、認定アドバイザーの人数の確保と質の担保をどう行っていくか関心を寄せているところですが、消費者が誰でも気軽にFPやアドバイザーに相談できるようになり、金融ケイパビリティのしくみが広がることを期待しています。

<参考>
※金融広報中央委員会「金融リテラシー調査(2022 年)のポイント」
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/2022/pdf/22lite_point.pdf
※J―FLEC 金融経済教育推進機構
https://www.j-flec.go.jp

黒田 尚子(くろだ なおこ)

CFP®認定者

1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格

消費生活専門相談員資格

CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター



 
公開日: 2024年09月05日 10:00