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長寿に備える「トンチン年金」の実力は?
■トンチン年金とは?
トンチン年金はイタリア人の銀行家ロレンツォ・トンティが考案したもので、「トンチン」の名称は彼の名前に由来します。その起源は17世紀のフランスにあります。当時のフランス政府は、長生きするほど多くの利息を受け取れる国債を発行しました。この国債を購入した人のうち、長生きした人が死亡した人の利息を受け取れる仕組みで、最終的には最後まで生き残った人が、購入者全員の利息を受け取ることになります。ただし、途中で死亡しても、国債の購入代金(元本)は返ってきません。
現在のトンチン年金は、これとは異なり、保険料払込期間中の死亡保障を行わず、解約返戻金を本来の7割程度に抑えることで、トンチン性を高めているものです。
■トンチン年金の具体例
【1】 日本生命 「長寿生存保険(低解約払戻金型)」
50~86歳の男性、50~85歳の女性が加入できる、長寿に備える生存保険です。保険料払込期間中の解約返戻金を抑えることで、年金原資を大きくしています。5年保証期間付き終身年金と10年確定年金の2種類があります。
【契約例】
・ 契約年齢:50歳(80歳払込)
・ 年金受取開始年齢:80歳(10年確定年金)
・ 月払保険料:男性14,994円、女性15,300円
●男性:保険料払込総額5,397,840円/年金受取総額6,000,000円(返戻率111.2%)
●女性:保険料払込総額5,508,000円/年金受取総額6,000,000円(返戻率108.9%)
【2】 かんぽ生命 「長寿支援保険(低解約返戻金型)」
50~70歳まで加入できます。保険料払込期間中の解約返戻金を低く抑えることで、長生きした場合の年金受取額を大きくする仕組みです。年金受取開始後、万一、亡くなった場合でも、保険料払込総額を大きく下回らないように、保証期間を設定できます。
【契約例】
・ 契約年齢50歳(70歳払込)
・ 年金受取開始年齢70歳(保証期間20年、年金最大受取期間30年)
・ 月払保険料:男性46,750円、女性51,700円
●男性:保険料払込総額11,220,000円
90歳までの年金受取総額10,000,000円(返戻率89.1%)
100歳までの年金受取総額15,000,000円(返戻率133.7%)
●女性:保険料払込総額12,408,000円
90歳までの年金受取総額10,000,000円(返戻率80.6%)
100歳までの年金受取総額15,000,000円(返戻率120.9%)
【3】アフラック 「ツミタス(無告知型特別終身介護保険/低解約払戻金)」
2024年6月に発売された新商品で、介護や死亡保障に備えながら将来に向けた資産形成ができます。保険料払込期間中の解約返戻金と死亡保障を低く抑えることで、将来の資産形成機能を高めています。
将来的に6つの保障コースから、自分に合ったコースを選択できます。加入時および将来のコース選択時における健康告知は不要です。
【契約例】
・ 契約年齢30歳(60歳払込)
・ 基本保険金額500万円
・ 月払保険料:男性8,940円、女性8,695円
●男性:保険料払込総額3,218,400円
60歳時の解約返戻金3,863,415円(返戻率120.0%)
●女性:保険料払込総額3,130,200円
60歳時の解約返戻金3,749,680円(返戻率119.8%)
■職場の団体年金を探そう
トンチン年金ではありませんが、有利な老後保障制度として、職場の団体年金を探してみましょう。
団体年金とは労働組合や共済会などを通じて加入する制度で、募集や事務手続きなどを労働組合などが担当するため、経費が抑えられます。その結果、掛金のうち運用に回せる金額が多くなり、返戻率が向上しています。
【1】 こくみん共済 coop 「新団体年金共済」
満15歳から60歳までの団体の組合員とその配偶者が加入できます。「税制適格年金プラン」では年金コースのみが提供され、「将来保障選択プラン」では、年金コースに加えて医療コースや医療・介護コースなど、5つのコースから将来選択できます。
【契約例】
・ 契約年齢:30歳(60歳払込)
・ 年金受取開始年齢:60歳(10年確定年金)
・ 月払共済掛金:10,000円(男女同一)
●共済掛金払込総額3,600,000円/年金受取総額4,372,150円(返戻率121.4%)
■魅力は返戻率の高さだけがではない
団体年金の場合、トンチン年金のように保険料払込期間中の解約返戻金を低く抑えていないため、解約返戻金を教育や住宅購入の資金に充てることも可能です。また、まとまったお金を好きなタイミングで投入できる「随時払」など、独自の制度もあります。
団体年金の唯一の弱点は「認知度が低いこと」です。制度の良さを知っている一部の人だけが利用しており、存在を知らない人はその恩恵を受けていないのが現状です。老後の備えを検討する際には、まず職場や労働組合に団体加入の制度があるかどうか確認しましょう。
中山 浩明(なかやま ひろあき)
CFPファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所®長野 主任研究員