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グローバル化が進む中、公的年金はどうなる?
外務省領事局政策課による「海外在留邦人数調査統計(令和5年(2023年)10月1日現在)」によると、2002年に28.6万人だった日本人である海外永住者(※1)は、2023年には57.5万人と2倍以上に増えています。また、3ヶ月以上の海外在留者であり、いずれ日本に戻るつもりの邦人を指す長期滞在者は1989年の34.1万人から2019年には89.1万人と2.6倍になっています。
セカンドライフを海外で過ごす人や、現役時代を海外で過ごした人の公的年金はどうなるのでしょうか?
海外で働く場合の年金制度
公的年金は基本的に、日本国内で生活している人が加入する制度ですが、海外に移住した場合でも日本の公的年金は受給できます。ただし、海外で働く場合は2つの重要なポイントがあります。
(1)社会保障協定を結んでいる国で働く場合
海外で働く場合に働いている国の社会保障制度に加入をする必要がありますが、その際に日本と他国の間で公的年金制度の調整を行うものが社会保障協定です。具体的には、保険料の二重負担を防止するために加入するべき制度を二国間で調整し(二重加入の防止)、年金受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくします(年金加入期間の通算)。
日本は現在、アメリカ、イギリス、中国など23の国(※2)と社会保障協定を結んでおり、これにより海外での勤務中も日本の公的年金制度加入期間となります。
(2)社会保障協定がない国で生活する場合
日本国内で被用者として就労する方が海外に派遣される場合や日本国内で自営業者である方が海外で自営活動を行う場合は、海外の社会保障制度に加え、日本の社会保障制度にも加入しなければならないことがあり、保険料などの二重負担の可能性もあります。
国外でも受給できる公的年金
海外に移住しても、公的年金の受給資格を満たせば年金を受給できます。その際には「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」の提出が必要ですが、年金の振込先は日本国内の金融機関を指定することも可能です。ただし「ゆうちょ銀行」は振込先として指定できないので注意しましょう。
海外の金融機関を年金の振込先として指定するときは、金融機関名や口座番号等を記載の上、その口座証明、小切手帳の写し、通帳の写し等を添付して提出します。また、受けている年金が老齢年金であって、日本と滞在国が年金の受け取りに関する租税条約を締結しているときは、手続きをすることで税法上非居住者が納めるべき所得税の免除が受けられます。
ただし、海外にお住まいの方が公的年金を受け取る場合は、年1回「現況届」の提出が必要です。日本年金機構から海外にお住まいの年金受給者に対して、誕生月の前月下旬に現況届が発送されます。提出期限は誕生月の末日です。提出する現況届には、お住まいの国の日本領事館等が発行した在留証明を添付します。加給年金額等対象者がいる方は、対象者の証明も必要です。なお、提出期限までに提出できない場合や、内容に不備のあった場合は、年金の支払いが一時差し止めとなるため注意しましょう。
外国人配偶者の公的年金
外国人配偶者が日本に住んで働いている場合、日本の公的年金制度に加入します。外国人であってもその会社の厚生年金に加入しますし、外国人が国民年金に加入する場合も、日本国内に住所を持つ20歳以上60歳未満の全員に加入義務があります。
一方で、外国人配偶者が本国(日本以外)に住み続ける場合や、日本の公的年金に加入していない場合、その配偶者が年金を受給できるかどうかは、主にその国の年金制度に依存します。社会保障協定が結ばれている国であれば、日本と同様の制度で保護されることが期待されますが、詳細な条件は国によって異なるため、各国の制度をよく確認することが重要です。
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※1 当該在留国等より永住権を認められており、生活の拠点をわが国から海外へ移した邦人
※2 ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、
市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所®長野 事務局長
日本FP協会静岡支部 幹事