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相続対策に活かす、相続時精算課税制度の活用ポイン
■相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度は、「60歳以上の父母や祖父母」から、「18歳以上の子や孫」への生前贈与について、受贈者が選択して利用できる制度です。贈与を受ける側(受贈者)は、贈与を行う側(贈与者)ごとに本制度を利用するかを選択できます。
この制度には2,500万円の特別控除があり、同一の父母や祖父母からの贈与について、累積贈与額が2,500万円を超えるまで何度でも控除でき、2,500万円までの贈与には贈与税がかかりません。
累計贈与額が2,500万円を超えた場合は、超えた額に対して一律20%の贈与税が課税されますが、相続時に「累積贈与額」を相続財産に加算して相続税を計算し、相続税と支払った贈与税を相殺して精算します。つまり、支払った贈与税より相続税額が少ない場合は差額が還付され、相続税額のほうが多い場合は差額を納付します。
■制度の利用が進まなかった理由
相続税がかかるほど資産がない方にとっては、本制度を利用することにより、2,500万円まで無税で財産を移転できるメリットがあります。一方、相続財産が1億円を超えると相続税率は40~55%という高い税率が課せられますが、そうした資産家にとっては相続時精算課税制度と一律20%は低い税率となるため、うまく活用すると納税額をおさえられる可能性があります。
そのため、相続がかからない方や、資産1億円以上の資産を持つ方にとってはメリットがある一方で、相続税の課税対象になるかならないかの境界にいる方には、本制度のメリットを活かしきれないという問題があります。
また、相続時精算課税制度は、受贈者(贈与を受ける人)が贈与者(贈与する人)ごとに、制度を利用するかどうかを選択する制度ですが、一度選択したら取り消すことはできません。例えば、父からの贈与について相続時精算課税制度で申告すると、以後の父からの贈与は全て本制度の適用となり、暦年課税を適用することができなくなります。こうしたことも、制度の利用にブレーキをかける原因になっていたと考えられます。
■2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除を併用できる
こうした理由で、あまり利用されてこなかった相続時精算課税制度ですが、暦年課税と同様に、年間110万円の基礎控除が設けられたことにより、一気に利用が進む可能性があります。例えば、資産まとめて贈与したい場合は、本制度の2,500万円の特別控除が大きな魅力になりますし、加えて毎年110万円の範囲で贈与を続けることによって、総額では大きな財産を子や孫に非課税で移転できる可能性があるからです。
■自社株や有価証券など、将来の値上がりが見込める資産に有効
相続時精算課税制度では、相続時に「累計贈与額(基礎控除額を除く)」を相続財産に加算して相続税を計算します。この時に加算する額は「相続時」ではなく、「贈与時の価格」で評価することになっています。つまり、将来の値上がりが見込める資産であれば、本制度で贈与することで評価額が低くなり、相続税対策となります。例えば、会社の経営者が将来、事業を長男に継がせたいと思ったときに、「自社株を本制度で生前に移転する」といった対策が有効です。
■父と母、それぞれ制度を使い分けることで、年間控除額を拡大
相続時精算課税制度は、受贈者(贈与を受ける人)が贈与者(贈与を行う人)ごとに利用するかどうかを選択します。例えば、父からの贈与は「相続時精算課税制度」を選択し、母からの贈与は「暦年課税」を選択することもできます。そうすることで毎年、父からの贈与で110万円、母からの贈与で110万円まで非課税となり、年間の基礎控除額が220万円に増えます。両親から毎年の贈与を受けることで、二次相続の対策としても有効です。
■アパートなど収益物件の贈与も有効
アパート経営で賃貸収入などがある場合、収入が積みあがることで相続財産が増える可能性がありますが、相続時精算課税制度を利用して収益物件を贈与すると、その後の賃貸収入は贈与した子や孫の収益となるため、相続財産の増加を防ぎ、相続税対策として有効です。
■相続時精算課税制度の注意点
このように、本制度の特徴を踏まえて利用することで、様々な相続対策が打てるようになります。ただし、注意点もいくつかあります。まず、相続時精算課税制度を一度選択すると、その贈与者からの贈与には暦年課税が適用できなくなるため、効果を慎重に確認してから活用する必要があります。
また、本制度を利用して宅地を贈与する場合、相続時に「小規模宅地等の評価減の特例」が適用できなくなります。「小規模宅地等の評価減の特例」とは、居住用や事業用、貸付用などの宅地について、一定の要件を満たせば評価を50~80%減額してくれるというものです。相続時精算課税制度を使ってこうした宅地を贈与した場合は、この特例は適用されません。そのため、本制度の利用を検討する際には、資産税に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
中山 浩明(なかやま ひろあき)
CFPファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所®長野 主任研究員