領収書不要になった今年の医療費控除のポイントは?
10月に入り、2017年も残り2ヶ月。秋の気配が益々濃くなってきましたが、この季節になると、今年もあっという間に終わってしまうなあ、と感じずにはいられません。そして、この1年間を振り返りつつ気になるのが、来年行う確定申告のこと。
とくに、がんや脳卒中、心筋梗塞などの大きな病気をしたり、ケガをして長期間入院したりして高額な医療費がかかった人は、「医療費控除の申告をした方が良いのか」と思い始める方もいるでしょう。
医療費10万円超でなくとも医療費控除は利用できる!
「医療費控除」とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間に、自分あるいは生計を一にする家族のために10万円以上の医療費を支払った場合、翌年確定申告することで所得控除が受けられるというものです。
また、10万円を超えていなくても、年間所得200万円未満の場合、医療費がその5%以上かかっていれば控除することができます。例えば、会社員など、収入が勤務先から支払われるお給料のみであれば、年収ベースで約310万円未満。医療費控除は、10万円を超えないと申告できないと思い込んでいる方も少なくないので、是非知っておいていただきたいポイントです。
今年から医療費控除にセルフメディケーション税制が追加
そして、医療費控除といえば、2017年から「セルフメディケーション税制」がスタートしています。
この制度は、OTC医薬品と言われる対象の市販の医薬品を1万2000円以上購入した場合、最大8万8000円まで、その年分の総所得金額から控除される医療費控除の特例です。
対象となる医薬品は、厚生労働省のWebサイトに掲載されており、2017年8月18日時点で1636品目となっています。対象製品の多くには、パッケージに「セルフメディケーション税 控除対象」のマークが入っていますので、それを目印にチェックしてみましょう。
ただし、この制度は、2017年1月1日から2021年12月31日までの期限が限定されている時限措置であること。適用対象となる人は、所得税や住民税を納めていて、特定健診診査(メタボ健診)、予防接種、定期健康診断(事業主健診)、健康診査、がん検診などを受けていることなど条件付きです。会社員であれば、勤務先の定期検査を受けていれば問題ありませんが、専業主婦などは、適用対象となるためには、がん健診や予防接種など受ける必要があります。
また、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は、ダブルで受けることはできません。いずれか一方を選択することになりますので、どちらを選択した方が有利なのか見極める必要があります。日本一般医薬品連合会のHPでは、どちらがおトクかシミュレーションできますので試算されることをお勧めします。
今年から医療費控除の領収書が不要に!
さらに最近、医療費控除について、添付書類に関する改正が行われたことをご存知でしょうか?
2016年分までは、かかった医療費の領収書の提出または提示が必要でした(電子申告で確定申告する場合は、医療費の領収書の添付を省略可)。それが、2017年分からは不要となり、代わりに「医療費控除の明細書」または「通知書」の提出でOKとなります。
「医療費の明細書」とは、治療を受けた人の氏名や病院・薬局などの支払先の名称、医療費控除の区分、金額を記載した一覧表のこと。医療費の明細書を提出した場合、領収書の添付は不要ですが、領収書は5年間保存しなければなりません。
そして、通知書とは、健康保険組合などから送られてくる「医療費のお知らせ」のことです。この通知書があれば、医療費の明細書への記載も領収書の保存も必要ありません。
ただし、通知書の場合、自費診療分の記載がないので、医療費控除の対象となる自費診療分があれば、それについては別途名作書の作成と領収書の保存が必要です。
また、通知書に記載されている情報が不足している場合や確定申告時にまだ送付されていない可能性などもありますので、いずれにせよ領収書は保存しておくのが無難でしょう。
なお、2017年〜2019年は移行期間ということで、従来通り領収書を提出することも認められています。
マイナンバー制度導入で将来はもっと楽に申告!?
実はこの改正、唐突に行われた感が否めません。なぜ、急にこのような納税者の利便性向上のための小ワザを繰り出してきたのか?どうやらマイナンバー制度と関係があるようです。
ご存知のようにマイナンバーは、税と社会保障の共通番号ですから、保険適用医療費も申告所得情報も管理できます。しかし、マイナンバー制度については、「大騒ぎして導入した割には面倒なばかりで、私たちに何の意味があるの?税金の無駄遣いじゃなの?」という声も上がっているよう。そこで少しでも国民の皆さんにメリットを実感していただくために、医療費控除添付書類が改正されることになったようです。
今後の予定では、内閣府のマイナンバーカードのポータルサイト「マイポータル」で、保険適用医療費データ(「医療費のお知らせ」の内容)を取り込み、電子申告できるようになる予定とのこと。今後の関係部署との調整も難航しそうですが、便利になるのはウエルカムです。
医療費控除は、所得控除ですから、税率の高い高所得層ほど還付効果も高くなります。公的医療保険や公的介護保険などの度重なる改正で、相対的に収入の高い人たちへの自己負担がどんどん重くなっている昨今。利用できる制度は、できるだけおトクに賢く活用していただきたいと思います。
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター