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おひとり様も変わらない貯蓄の必要性

平成27年国勢調査による一般世帯の家族類型別比率は、「単独世帯」が最多で34.6%、「夫婦と子どもからなる世帯」が26.9%、「夫婦のみの世帯」が20.1%、「ひとり親と子どもからなる世帯」が8.9%などとなっています。
日本人の3人に1人が「単独世帯」であり、長らくモデル世帯といわれ続けた「夫婦と子どもからなる世帯」は全体の4分の1程度しかいない事実は、肌感覚として既に感じ取っていた人にとっても衝撃があるものです。
さらに、「単独世帯」を平成22年の調査と比べると9.7%の増加となっており、一般世帯に占める割合は32.4%から34.6%へと上昇しています。この傾向がしばらく続くとなれば、勤労世帯に対するお金まわりのアドバイスもこれまでとは違うものになり得ます。


◆ライフイベントに掛かる費用を大枠で考えてみる
ライフイベントにかかる費用を、「夫婦と子ども2人の世帯」(いわゆるこれまでのモデル世帯)と比較してみます。
(A) 「夫婦と子どもの世帯」の一般的なケース
   ①結婚   : 200万円
   ②住宅   :3,700万円
   ③自動車  : 600万円
   ④教育費  :2,000万円
   ⑤葬儀代  : 200万円    合計:6,700万円
総額は6,700万円になります。計上したのは全国平均を基準とした概算値のため、②住宅や③自動車にかかる費用には地域差が、④教育費については世帯差がありますが、退職後の生活費や生命保障などにかかる費用を除いても、6~7,000万円程度になる世帯が一般的です。
次に「単独世帯」を試算してみてみましょう。
(B) 「単独世帯」
   ①住宅   :3,700万円
   ②自動車  : 600万円
   ③親の介護 :  900万円
   ④自分の介護: 900万円
   ⑤葬儀代  : 200万円    合計:6,300万円
子どもを持つ世帯に比べ大幅に少なくなるものと思いきや、総額は6,300万円と(A)「夫婦と子ども2人の世帯」と変わらない可能性があります。要因は2つで、①住宅と③と④の介護費用です。まず①住宅については、実家に住み続ける人が一般的と考えがちですが、マンション等を購入する単身者が多いことはよく知られる事実です※1。(A)「夫婦と子ども2人の世帯」と同様に全国平均を計上しています。
「単独世帯」が将来負担する可能性が高いのが③親の介護です。複数の兄弟姉妹がいても、介助者としては単身者が期待されるケースが多いことから900万円を計上しています。施設介護に掛かる標準的な費用15万円/月×12か月×5年(平均的な入所期間)として算出しました。また、単身者自身に介護が必要になると周りに介助者がいないことから、やはり施設に入所する可能性が高く、④自分の介護にも同額の900万円を計上しています。③親の介護と④自分の介護の合計が1,800万円ですので、(A)「夫婦と子ども2人の世帯」の教育費(2,000万円)に迫る金額です。


◆「単独世帯」が注意すべきこと
ライフイベントに掛かる費用が、「夫婦と子ども2人の世帯」と変わらない可能性があるなら、貯蓄の必要性も変わらないことになります。しかし、「単独世帯」の場合は、掛かる費用の多くが現役時代の後半から退職後に偏っている点には注意が必要でしょう。この特性を考慮すると、「単独世帯」はむしろ将来を見据えた貯蓄の必要性が高いと考えることもできます。すなわち、年老いてから頼れる親族(≒子ども)が周りにいない状況では、有料サービスに頼らざるを得ないことが想定されるからです。

一方で、生涯独身のつもりでいた人が、電撃的に結婚することもあります。この場合、お金の使い方の急激なシフトチェンジのほか、出産関連で予想外にお金がかかるケースも少なくありません。教育費と住宅取得費が短期間で一気に押し寄せてきた場合、単身時代の貯蓄の有無がライフイベント達成の成否に直結することになります。

単独世帯にも備えるべき課題がある以上は、「おひとり様は気楽」とまでは言えそうになく、目的を明確に持った貯蓄はやはり必須といえます。


※1 住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」では、単身者のフラット35利用は全体の6.79%(全国)。首都圏に限れば9.73%と1割に迫る。また、総務省統計局の住宅に関わる定点調査「住宅・土地統計調査」の調査では、単独世帯の持家比率は女性の方が高いこともわかっている(独身女性のマンションン所有率を男性と比べると、40代ではぼ2倍)


関口 輝(せきぐち あきら)
AFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員

公開日: 2017年11月30日 10:00