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働き方改革=賃金改革となるか否か

数ヵ月前に「2年後に備えよ」と題して、消費増税が景気を悪化させる可能性が高いと述べました。景気の悪化により、収入は増えず、物価は低下して再びデフレ経済になる負のスパイラルに陥るかもしれないとも述べました。その舌の根が乾かないうちに、消費増税にプラスして新たな暗雲が立ち込める材料が出てきたことを見逃すことはできません。

時事的な話題から入って恐縮ですが、1月22日から通常国会が始まりました。通常国会では、2018年度の予算や税制改正法案のほか、さまざまな法案が審議される予定ですが、私たちのお金周り(家計)に大きな影響がありそうなのが「働き方改革」です。働き方改革は今通常国会の重要法案の一つのようで、中でも「罰則付きの時間外労働の限度を設ける(=残業時間の規制)」に注目が集まるところです。電通社員の痛ましい事件、ブラック企業の横行、ブラックバイト等々、健康を害するような長時間労働に規制をかけるものです。「ワークライフバランス」が唱えられていることから、長時間労働の是正は還元されるべきことですが、それは、賃金が減少しないという前提に立たなければいけません。賃金というよりも年収(所得)といった方がよいでしょう。安倍首相は、今春闘で3%の賃上げを目指すと言っていますが、3%の賃金で足りるかどうか…。

  働き方改革では、残業の上限は月平均で60時間に規制される予定ですが、規制が導入された場合、残業代は最大で8兆5,000億円前後減少するというシンクタンクの試算があるのです。8兆5,000億円と言われてもピンとこないと思われますので、実感のある数字に修正してみましょう。国税庁が毎年公表している「給与実態調査」によれば、2016年の給与所得者の数は5,774.2万人です。ただし、この人数は2016年に給与という名目で所得を得たことがある人で、1年間まるまる給与を得ていた人数ではありません。この5,774.2万人で計算すると、1人当たり約14万8,000円もの収入が減少することになります。月に直すと約1万2,333円です。この数字を見ると、残業代はある意味低い基本給(給与)の補填という側面があることから、その補填がなくなれば勤労者は大打撃です。ただでさえ収入が増えず財布の紐が緩まないのですから、収入が減少すれば当然支出を抑えるはずです。支出を抑えれば消費は落ち込み、ひいてはGDP(国内総生産)の成長率も落ち込むことでしょう。 

国は長時間労働を助長する残業が問題であるとして杓子定規に残業規制を行うようですが、減少する勤労者の収入をどうやってカバーするのでしょうか。仮に減少する残業代を補う賃金改革を行わなければ、春闘の3%賃上げも焼け石に水と言わざるを得ません。抜本的に賃金改革を行い、残業時間の上限が設けられても収入が減らない仕組みに改革しなければならないのです。同時に、私たち勤労者も長時間働いていることを「是」とする考え方を改めなければなりません。長い時間働いていると「頑張っている」ではなく、仕事の成果などで「頑張り度」を計る尺度が必要になると思われてならないのです。

ついで言うと、一部残業規制を自主的に行っている企業では「フラリーマン」なる人種(造語)まで現れ始めているとか。その意味は割愛させていただきますが、働き方改革によって発生(得る)する時間をどう活用するのかも考えて行く必要がありそうです。働き方改革=賃金改革となるのか否か、しっかり見ていきましょう。


深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2018年02月08日 10:00