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改めて「率と額」の違いに注意を払おう

「適温相場」と言われ続けていた世界の株式市場に激震が走りました。ニューヨークダウの下げ幅は1,175.21ドルと過去最高を更新しました。それまでの過去最高は、2008年9月29日の777.68ドルの下落ですから、約400ドルもの大幅な下落となったわけです。明けて日経平均株価も1,071円安となりました。一時は約1,600円の下落でしたから、引けにかけて戻したことになります。ちなみに日経平均株価の下落幅、そうはいってもワースト10にも入らない大きさでした。しかしながら大幅下落の背景は専門家に委ねるとして、センセーショナル的な報道が行われたことから、冷汗をかいた人もいるかもしれません。日米の株式相場は、2018年1月末と比較して2月6日終了時点で約300兆円もの時価総額が吹き飛んだのですから・・・。

確かに「過去最高の下げ幅」「世界同時株安」「日経平均株価1,000円超の下落」等々の言葉が並べば、投資を行っている人は冷静で要られなくなるのも事実です。しかし、視点を変えて数字を見てみると違った景色が見えてくるのです。過去最高を更新したニューヨークダウ、下落幅は1,175.21ドルでしたが、下落率は4.6%に過ぎません。4.6%でも大幅な下落率と言えるのですが、それまでの過去最大の下落幅、777.68ドルの下落率6.9%と比較すると2.3%も下落率は逆に小さくなっているのです。同様に日経平均株価も1,071円安となりましたが、下落率に直せば4.73%に過ぎないのです。普段私たちは、価格の変動を「率」ではなく「額」で捉えているからです。あるいは「幅」と言い換えてもよいでしょう。たとえば、1,000円のモノが1,030円になれば30円値上がりしたと捉え、3%値上がりしたと考える人は少数派のはずです。このためニュースや新聞などでは、ニューヨークダウが4.6%の下落、日経平均株価が4.73%などと報道せず、下落幅を報じて私たちの関心を誘うわけです。

もう1つ注意しなければならないのは、元になる数字が違っているということです。今回の株価急落では、ニューヨークダウの水準は約2万5,500ドルでしたが、それまでの過去最高を記録した2008年9月29日は約1万400ドルだったのです。元の水準が高いから値幅が出たと言えるのです。日経平均株価を使ってたとえば5%の下落を比較すると、同指数が2万円の時の下落幅は1,000円になりますが、同指数が1万円の時の下落幅は500円にしかならないということです。今回の急落が起こった局面では、ニューヨークダウは史上最高値、日経平均株価は約26年振りの高値近辺であったことから、大きな下落幅が出たというわけです。

同じ価格の変動を見るにしても「額(幅)」と「率」では景色が違うことがわかったと思われますが、投資をする際のリスク許容度を考える際にも応用できることを覚えておくべきです。投資を行う際、どれくらいの損失に耐えられますか?という質問の場合、仮に10%までなら耐えられるとします。10%、言い換えれば1割なら大丈夫と思ったとしても、投資金額が30万円、500万円、1,000万円のケースを額で考えれば、10%の下落は3万円、50万円、100万円という違いになるのです。3万円ならまだしも、50万円、100万円という金額で損失を示されてしまうと、たとえ10%の損失でも腰が引けてしまうのではないでしょうか。数字は額(幅)だけではなく、率でも見る癖、考える癖をつけておくとよいでしょう。


深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2018年02月22日 10:00