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配偶者特別控除が変わり働き方も変わる?

会社員※1(夫と仮定)の配偶者がパート等で収入を得る場合、収入額を年収103万円以下に抑える世帯が少なくありません。その背景には、妻の収入が増えることで夫の税金が増え、妻自身も税金や社会保険料を負担して手取りが少なくなることへの懸念が見て取れます。この就業調整が、経済成長の妨げになっているとして、配偶者控除及び配偶者特別控除が改正され、平成30年1月から適用されています。改正後はどのように働き方を変えられるのか検証してみます。

所得税の計算方法
給与収入の場合、収入から給与所得控除を差し引いたものを所得といい、さらに所得控除を差し引いた残りが課税給与所得といいます。所得税はそこに所得税率を掛けて算出します。つまり給与所得控除や所得控除は多ければ多いほど課税給与所得が少なくなり、所得税額も少なくなります。

給与所得控除は収入のおよそ3割程度ですが、収入がいくら少ない場合でも最低65万円の給与所得控除があります。所得控除には、社会保険料控除や基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、生命保険料控除などがあり、利用できる所得控除はそれぞれの世帯によって異なります。所得税率は課税給与所得の額によって5%~45%の7段階に分かれており、195万円以下であれば5%、195万円を超えて330万円までの額には10%の税率がかかります。

配偶者控除
配偶者控除とは、年収1,120万円以下の世帯主の場合、生計を一にする配偶者の合計所得金額(以下、所得という)が38万円以下であれば、世帯主は配偶者控除として38万円の所得控除が利用でき、課税給与所得は38万円少なくなります。もし世帯主の課税給与所得が330万円だった場合、所得税率は10%ですから、3.8万円※2の所得税が少なくなるということです。

配偶者の所得38万円を年収に換算してみると、収入から給与所得控除を差し引いたものが所得ですから、所得38万円に給与所得控除の最低額65万円を足すと収入になります。つまり所得38万円以下とは、収入103万円以下であり、配偶者がパート収入を103万円以下に抑えて、世帯主が配偶者控除を利用した方が有利ではないかと考える世帯が少なくないのです。

配偶者特別控除
配偶者のパート収入が103万円を超えると、配偶者控除は使えなくなりますが、配偶者の所得がある金額までであれば配偶者特別控除が使えます。ある金額とは、以前は76万円(収入141万円)でしたが、平成30年の改正で123万円(収入でおよそ201万円)に引き上げられました。配偶者特別控除は配偶者の所得により控除金額が変わります。今回の税制改正での大きなメリットは、配偶者の所得が38万円(収入103万円)を超えて85万円(収入150万円)以下であれば、配偶者特別控除は38万円となったことです。つまり世帯主は、配偶者の収入が150万円までは、配偶者控除または配偶者特別控除のいずれかで38万円の所得控除が利用できるため、今まで以上に配偶者は103万円の壁など気にせず働くことが可能になったということです。

しかし、配偶者の収入が150万円を超えると配偶者特別控除の額も少しずつ少なくなり、配偶者の収入が150万円を超えて155万円以下の場合、配偶者特別控除は36万円になります。さらに配偶者の収入が155万円を超えて160万円以下では配偶者特別控除は31万円、160万円を超えて165万円以下では配偶者特別控除は26万円というように、配偶者の所得が5万円増えると世帯主が利用できる配偶者特別控除が5万円減ります。さらに配偶者の所得が5万円増えると世帯主が利用できる配偶者特別控除が5万円減るという仕組みです。

これを世帯の手取り収入で考えてみると、配偶者の所得が5万円増えるということは、所得税5%と住民税10%を差し引き4.25万円です。世帯主は所得控除が5万円少なくなるのですから、課税給与所得が5万円増えますが、所得税率は100%ではなく、195万円以下であれば5%、330万円以下であれば10%ですから、所得控除が5万円減っても増える税金は税率が5%であれば0.25万円、10%であれば0.5万円です。つまり世帯の手取りでいえば、配偶者の収入がどこまで増えても、手取り収入が逆に減ってしまうということなど起らないということです。

この事実は制度改正前からも変わっていませんが、今回の制度改正では配偶者特別控除が配偶者控除と同じ38万円の控除額である配偶者の収入幅が大きくなった点が特徴です。世間で言われる収入の壁を気にして働きたい方が収入を抑える必要はありません。収入が130万円を超えると社会保険料を負担し、一時的には手取りが減少しますが、老後の年金や社会保障の充実まで考慮して、ご自身の働き方を考えてみてください。


※1 公務員、団体職員の場合も同様
※2 38万円×10%


番場 裕美(ばんば ひろみ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 研究員
公開日: 2018年03月01日 10:00