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相続対策はまず遺産分割から

このコラムの記事を書いている時点では、平成30年度の税制改正法案が可決されていません。相続に関することを書くと鬼が笑うのかもしれませんが、お許しいただきたいと思います。ちなみに、平成30年度の税制改正法案には盛り込まれていませんが、その先の相続税の改正では、不動産を配偶者に残す際の控除のあり方、例えば相続人ではない長男の嫁などが介護を行った場合でも、その行いに報いるために相続財産がわたるようになることが議論されているようです。

今回、相続に関することを書こうと思ったのは、相続税を低くする(節税対策)ことを最も重要なことと考え、相続対策を行っている人が多いと感じるからです。私たちの税金が適切に使われていないと思われることが多々あるため、1円でも納める税金を少なくしたいと思われる気持ちは充分に理解できます。しかし、実際に相続が発生すると10カ月以内に遺産分割を行い、相続税を納める必要があることを忘れてなりません。10カ月もあれば充分と思われるかもしれませんが、皆さんが考えるほど10カ月は長くありません。
筆者も4年前に父親が亡くなり相続に直面しました。勉強になると思い、父の相続に関することは筆者が行いましたが、10カ月は意外と短いというのが印象でした。筆者の場合、仕事は比較的自由になり、また相続人が近隣に住んでいたので手続きを進めるにも不自由を感じることはありませんでした。また、父親が戸籍をあまり移していなかったことから、戸籍を揃えるにも苦労はほとんどなかったのです。ちなみに、相続時には生まれた時から亡くなるときまでの戸籍を揃える必要があります。戸籍を何度も移されると大変なので、このコラムを読まれている皆さんも、引っ越しなどで何度も戸籍を移すのは控えた方がよいでしょう。

戸籍も然ることながら、相続人が遠くにいる場合も大変です。電話やメールなどでやりとりすれば大丈夫と考えるかもしれませんが、声色や行間を読むのは非常に難しいことです。まして財産分与が絡んでくることから、顔が見えないとなおさら揉めやすいケースが増えているとも見聞きします。遠くにいれば、相続人が一堂に会する回数を増やすのは大変なうえ、相続人が増えるほど困難を極めることになるのです。つまり、相続で最優先することは相続税を低くする節税対策ではなく、「遺産分割」をいかにスムーズに行うのかなのです。

遺産分割は法定相続通りにやるから大丈夫と思われるかもしれませんが、先に述べたように長男の嫁が被相続人の介護を行っていれば、相続時にその介護分の権利を長男が主張するのです。あるいは2人以上の子ども(相続人)がいる場合、教育費の優劣を相続時に清算してくれと主張するのです。例えば兄弟なら、兄は東京の大学に進学し、親元を離れて1人住まいをしたので仕送りを行い、その総額が4年間で700万円かかったとします。弟である自分は地元の大学に進学し、自宅から通ったので総額は300万円で済んだとします。その差額の400万円を相続時で清算して欲しいとなるのです。兄弟間の法定相続分は同じ割合なのだから、精算しない方がおかしいとなるわけです。驚かれる人もいるかもしれませんが、これらは氷山の一角に過ぎず、実際の相続時には思わぬ主張が相続人から出てくるのです。何度も言いますが、相続対策でまずやらなければならないのは、節税対策ではなく遺産分割なのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表


 
公開日: 2018年03月08日 10:00