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公的年金のキャリーオーバー制度導入開始

今回はやや時事的は話題になりますが、取り上げているところが見当たらないのであえてご紹介します。2018年度(同年4月1日)から公的年金に新たな仕組みが導入されているのです。
私たちの公的年金は、「物価スライド」から「マクロ経済スライド」に変更されているのはご存知かもしれませんが、確認のため簡単に触れておくと、かつて公的年金は物価の上昇に合わせて受給額は毎年度見直しが行われていました。それが2004年度の改正により、物価スライドから「マクロ経済スライド」に変更されたのです。マクロ経済スライドとは、物価の上昇率から一定のスライド調整率を差し引いた割合で受給額を見直すことにしたものです。スライド調整率を差し引くことから、物価の上昇率ほど受給額が増えなくなってしまったのです。そのマクロ経済スライドによる調整ルールが2016年12月に改正(「公的年金の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」)され、施行されました。
公的年金制度のややこしいところは、法律の改正と実際の施行時期にかなりの開きがあることから、改正された当時は注目されるものの、実際の施行日においてはあまり注目されないというジレンマがあるのです。今回も法律自体は2016年度に改正されたのですが、施行は2018年4月1日。だから取り上げられることがない、あるいは施行はされたものの、当面実行されることはないからあえて取り上げていないのかもしれません。

4月から改正された公的年金額の改定は「マクロ経済スライド調整ルール見直し」と称されるもので、少子化、平均寿命の伸びなど長期的な構造変化に対応するものです。簡単に言えば景気状況によって年金額の変更の有無を決めるというものです。
たとえば、景気拡大期には、年金額は現役世代の賃金、消費者物価指数の上昇を反映させて完全調整されることになります。つまり今までの年金額の改定と同様の見直し(マクロ経済スライド)が行われるのです。一方、景気後退期には、年金額は現役世代の賃金、消費者物価指数が下落を反映させずに前年と同額が支給されることになるでしょう。この場合、かつてのデフレ時代と同じように、現役世代の賃金が減っているのにリタイア世代の年金支給額が変わらないという状況になり現役世代の実質的な負担はかなり厳しいものになります。そこで、景気が回復期になった局面では、景気拡大期と同じように、現役世代の賃金、消費者物価指数の上昇を反映させて完全調整され、かつ景気後退期に改定しなかった未調整分を含めて年金支給額が見直されることになるのです。

本来であれば、景気後退期には年金支給額を減額するのが正しい見直しなのでしょうが、年金支給額の減額はリタイア世代には不満が募る施策になります。不満が蓄積しないように、見かけ上は年金支給額を減額しないようなフリをして、景気が回復した時にまとめて改定してしまおうということなのです。景気後退期に年金支給額を見直さない(景気回復期まで先送り)ことから「年金のキャリーオーバー制度」と称するようです。リタイア世代に優しい政策(改定)に見えますが、その実は目くらまし的な見直しで、将来実行された暁には(景気後退、景気回復となった場合)リタイア層からかなりの不満がでるでしょう。なぜなら、年金支給額はほとんど増えないにもかかわらず、景気の回復により消費者物価は上昇。日常の生活はかなり厳しくなると推測されるからです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
 
公開日: 2018年05月03日 10:00