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自然災害に備える住宅ローンの保障

自然災害により所有する住宅に住めなくなった場合でも、一般的にはその住宅購入時に借りた住宅ローンの返済は続きます。もう一度住宅を建てるためには、加入している地震や自然災害に関する保障を利用するか、貯蓄を使うか、新たに住宅ローンを借りる、という選択肢からいずれか、またはすべてを選択する必要があります。なお、一般的な地震保障には加入できる限度額があるため、地震による火災や損壊、埋没、流出の損害に対してすべてを保障で賄うことはできません。

また、新たに住宅ローンを借りた場合は既存の住宅ローンと二重の返済になり、その後の返済が難しくなるのは目に見えています。そのため自然災害時に住宅ローンの返済から解放される手段をあらかじめ検討しておくことが大切です。

住宅ローンに付帯される自然災害保障
住宅ローンを借りた方が死亡または高度障害になった場合、住宅ローンの返済が免除される保険が団体信用生命保険(以下、団信という)です。近年では、がんなどの三大疾病等で所定の状態になった場合に返済が免除される団信も珍しくありません。このように様々な保障が付帯された住宅ローンが増えるなか、自然災害時のローン返済を保障する住宅ローンも登場しています。

三井住友銀行が2008年4月にエース損害保険を引き受け保険会社として、自然災害時返済一部免除特約付住宅ローンという名称で、業界初の自然災害時に返済の一部を免除する住宅ローンの販売を開始しました。自然災害による自宅の罹災の程度に応じて、最大24ヶ月間の住宅ローン返済額を払い戻すことで、実質的にその間は返済負担がなくなります。いわば「一定期間返済免除型」です。一方で2014年2月には引き受け保険会社をスイス・リー・インターナショナル・エスイーとして、自然災害による自宅の罹災時にローン残高の半額を保障する「残高保障型」も並行して発売しています。

新生銀行も2017年10月から、スイス・リー・インターナショナル・エスイーと提携し、自然災害時債務免除特約という名称で、一定期間返済免除型の保障が付いた住宅ローンを販売しています。

地方銀行では関西アーバン銀行が2013年7月、常陽銀行が2016年9月、筑波銀行が2017年2月に販売を開始し、愛媛銀行と北日本銀行もカーディフ損保を引受保険会社として一定期間返済免除型の取り扱いを行っています。

利用にあたっての注意点
一定期間返済免除型は自然災害時に返済の一部を免除しますが、保障期間、ローンに上乗せされる金利、対象になる自然災害など、内容は金融機関によって異なります。

三井住友銀行と関西アーバン銀行は金利に0.1%を上乗せすることで、地震、噴火、津波、水災、風災、ひょう災、雪災、落雷により市区町村が発行する罹災証明書により全壊時に24ヶ月、大規模半壊時に12ヶ月、半壊時には6ヶ月間、住宅ローン返済額相当が支払われます。新生銀行の自然災害時債務免除特約も保障内容は同じですが、金利の上乗せはありません。常陽銀行の場合は金利の上乗せが0.05%ですが、対象の自然災害には地震、噴火、津波が含まれません。愛媛銀行と北日本銀行は対象の自然災害の範囲を地震、噴火、津波、水災、風災、ひょう災、雪災、落雷のほかに火災、爆発、車両の衝突などにも拡大していますが、居住不能費用保険という位置づけのため、全壊、大規模半壊で居住不能の場合にのみ対象となり、6ヶ月間の返済額相当が支払われます。

残高保障型は三井住友銀行のみの取り扱いですが、対象となる災害は地震、噴火、津波に限定され、全壊と認定された場合のみ、その時点のローン残高の50%が免除されます。また、上乗せする金利はプラス0.5%と大きくなる点に注意が必要です。

自然災害に対する備えは保障だけではない
現時点で販売されている住宅ローンに付帯できる保障では、ローン返済の全額に備えることはできません。しかし、地震に備えて加入する共済や保険においても住宅金額の全額は保障できないため、両者を併せて利用することで、当面の費用や実際の建て替えに要する費用などに備えることが可能になります。

なお、罹災時に多額の住宅ローンが残っていることが、二重ローン問題の根本的な原因です。最初からローンを借り過ぎないことも自然災害への備えになることを覚えておきましょう。


市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
日本FP協会静岡支部 幹事
 

公開日: 2018年05月10日 10:00