全員

学費こそインフレに備えるべき

子どもが生まれたら、早めに準備を始めたいのが「教育費(学費)」です。2013年頃までのデフレをあざ笑うかのように、上昇を続けているからです。

文部科学省が公表している授業料等の推移から、国立大学と私立大学の入学年度の授業料等がどのくらい上昇しているのか試算してみました。日経平均株価がピークを付けた1989年度以降になりますが、国立大学は52.5万円(1989年度)から81.78万円(2017年度)に、私立大学は82.71万円(1989年度)から113.11万円(2016年度)に増加しているのです。それぞれこの間の増加率は、国立大学は55.8%、私立大学は36.8%となっています。一方で、消費者物価はほぼ一貫して下落、2000年前後から日本銀行が大規模な金融緩和を行い始めた2013年までは、一時期を除き物価が下落するデフレだったので、教育費の増加率はものすごい上昇であることがわかるはずです。

教育費の準備といえば、現在でもその中心は学資保険や預貯金になることでしょう。残念ながら、1989年当時の学資保険の予定利率が筆者の手元にないため、預貯金金利で代用して試算してみました。当時はさまざまな規制があったことから、銀行の定期預金の預入期間は最長3年、最も長いものが郵便局(現、ゆうちょ銀行)の定額貯金の10年でした。銀行の定期預金、郵便局の定額貯金共に3年以上に適用される金利は年3.64%(1989年4月1日)でした。仮にこの金利で毎月積立を行った場合、18年後(子どもが生まれ大学に入学する時)には、税引後の元利合計で1.327倍になったのです。国立大学の上昇には対応できませんが、私立大学の上昇には概ね対応できたことになったのです。足下の金利状況を考えると「3.64%」もの金利は超高金利になりますが、20世紀の定期預金(定額貯金)金利では最も低い水準だったのです。

過去30年弱で大幅に上昇した教育費。今後も過去と同じような増加率で増えていくかはわかりませんが、デフレ下でも減少しなかったことを考えれば、今後も右肩上がりで増えていく可能性が高いと思われます。仮に学校へ支払う教育費が増えなかったとしても、塾へ通うなどの学校外の教育費が増えていることから、教育費全体では負担額が減ることはないと思われます。言い換えれば、教育費は今後も物価の上昇率以上に増えていく可能性が高いと認識したうえで、準備を行っていく必要があると言えるでしょう。

仮に今年度に子どもが生まれ、大学の進学準備のために教育費の準備を始めたとしましょう。足下の預貯金金利、学資保険などの予定利率を考慮すれば、残念ながら教育費の上昇に追いつけない可能性が高いと思われます。これからの教育費の準備は、物価の上昇(インフレリスク)を考慮する必要が大切になるというわけです。  預貯金や学資保険だけで準備をするのではなく、プラスして物価の上昇に強い資産を組み合わせて準備をして行かれるとよいはずです。
インフレリスクに強い資産の1つに株式がありますが、株式を積立方式で買い付ける方法(株式累積投資)は、分散投資を行いにくいうえ、取扱う証券会社が少ないのがネックになります。積立方式で準備するのであれば、分散投資が行われ、かつ取り扱う金融機関も多い投資信託で積み立てるのが実際的と言えるでしょう。投資信託の積立であれば、「①NISA」、「②ジュニアNISA」、「③つみたてNISA」の非課税投資制度を活用することもできます。3つのうち「①NISA」、「②ジュニアNISA」は、法律の改正が行われない限り積立期間(非課税投資期間)は2023年までの約6年弱しかありません。「②ジュニアNISA」は、子どもが最長20歳になるまで非課税で保有を続けることができますが、積立期間を考えれば使い勝手がよいとは言い切れない面があります。2018年から始まった「③つみたてNISA」であれば、非課税投資期間は20年あります。毎年の非課税投資枠は40万円、合計800万円まで積立投資を行うことができるため、預貯金や学資保険にプラスして教育費を準備するには、最も適した非課税制度と考えられます。
「③つみたてNISA」では、積立で買い付けた投資信託などからの収益が非課税になります。収益が非課税になる、かつ教育費のインフレリスクに備えられる可能性があるからといって、「③つみたてNISA」をメインにして、預貯金や学資保険をプラスする形で準備を行おうと考える人もいるかもしれません。ただし、投資信託を含めて投資には絶対に勝てるという確証はありません。長期で積立投資を行えば収益を確保できるチャンスが増えますが、私たちが使いたい時に必ず収益が確保できるわけではありません。子どもの教育費は使う時期が決まっていることから、準備の基本は預貯金あるいは学資保険をメインとして、「③つみたてNISA」をプラスするという考え方がよいと思われます。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
 
公開日: 2018年05月17日 10:00