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改めて問う、住宅ローン借りられる額と返せる額は異なる
一般的な住宅ローンでは、完済時(最終返済時)の年齢は81歳未満という決まりがあります。このため完済時の年齢が70歳代であったとしても、銀行の融資審査上では何ら問題はありません。ちなみに、これまでの多くの家計相談の中で、完済年齢が79歳という相談者は何名かいらっしゃいましたが、80歳という方には出会ったことがありません。話がそれてしまい失礼しましたが、住宅ローンは「借りられる額と返せる額は異なる」ということを再認識して欲しいのです。
先日、たまたま旧知の銀行の方とお話をする機会があり、単刀直入に「住宅ローンの審査基準を変更していますか」と質問したところ、旧知の方は「弊行は全く変えていませんが、一部の銀行では審査基準を変更しているように感じることがある」とおっしゃっていました。実際に審査基準の変更があったのか否かは定かではありませんが、1つ言えるのは、審査時には借り手(私たち)の将来のキャッシュフロー見通しはほとんど考慮されていないということです。
キャッシュフロー見通しも然る事ながら、借り手である私たちの返済プランにも甘さがあるような気がしてなりません。完済年齢が70歳代ではなく60歳代、正確には退職後になる人に共通しているのは、退職金で完済するから問題はないだろうという考え方です。その考え方自体が甘いと言わざるを得ないのです。勤労者の退職金が減少しているからだと思われるかもしれませんが、退職金で完済を考えている人は、保有する金融資産の額が多くないというケースが多々あるからです。言い換えれば、しっかりと貯蓄を行ってこなかったために、あるいは現役時代に教育費などが想定以上にかかってしまった等々、理由はさまざまでしょうが、結果として現役時代に繰り上げ返済を行うことができなかったと推測されるのです。推測の域を出ませんが、中にはあまりにも無謀な住宅ローンを組んでしまったケースも散見されます。このようなケースでは、退職金で住宅ローンを完済できてやれやれと思われる一方、完済したことにより退職金の残りはわずか。老後資金にあてにしていたにもかかわらず、手持ちの金融資産と合わせても、人生100年時代と称されるようになった長い老後に備えることは難しいと言わざるを得ないのです。希望者は65歳まで再雇用されるように法改正が行われていますが、先のようなケースでは65歳まで再雇用で働いたとしても、65歳超の老後資金が大幅に改善したケースはほとんどありません。老後資金が改善されていないのですから、再雇用が終わったとしても働く必要性は当然ながら高くなります。大病などをしなければ週3回のパートやアルバイトで済むかもしれませんが、万一を考えるとフルタイムで働く必要が有るケースが多々あるのです。しかも、夫婦そろって働かなければならないのです。
人生90年時代から100年時代へと変わりつつあるのですから、お金との付き合い方も100年時代へ対応できるように変えていく必要があるでしょう。夢のマイホームではあるものの、住宅ローンを組む際には「借りられる額と返せる額は異なる」を肝に命じて返済プランを考える必要性は、いつの時代も変わることはないのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表