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時の経過を認識するべき

「温故知新」、古きを訪ねて新しきを知るという意味だが、古きを訪ねると改めて時は残酷だと思えてしまうことがある。2019年に改元が行われることから、徐々に祝賀ムードが高まるのだろうが、足下を子細に見ると喜んでばかりいられないとつくづく感じてしまう。筆者は今年56歳になるのだが、同期、同世代を含め我が身を振り返ると、一般的な退職年齢である60歳前まで働き続けられるのか?と疑問に思うことがあるからだ。
AIの進展により仕事がなくなることを心配しているのか?と言われそうだが、AIの心配ではなく「リストラ」の心配をしているのである。リストラと言われて驚くかもしれないが、人手不足が続いている雇用環境下でも、希望・早期退職を募る企業は増えているのである。

東京商工リサーチが主な上場企業を調査したところ、2017年の希望・早期退職を募った企業数は25社。実施企業が前年を上回ったのは5年ぶりのことである。業績不振からリストラに踏み切る従来型のほか、若手登用を進め年齢構成の是正を図るほか、早めに不採算事業を見直して筋肉質の体質へ転換を進めたり、新たなビジネスモデルの構築に動いたりする企業など、将来を見据えたリストラを行う企業の出現などにより実施企業が増えたようである。この流れは一過性ではなく、今後も継続すると考えられることから、人手不足が続いている状況下でもリストラは粛々と進められることであろう。

どのような形で進められるにしても、リストラが行われれば、その対象は50歳代や40歳代が中心になることだろう。まさに筆者の同期や同世代がその対象の第一候補になるのである。
思い起こせば2008年の秋、米国の投資銀行であるリーマンブラザーズが経営破綻して世界同時不況が発生。当時の財務大臣は、日本経済への影響は「ハチに刺された程度」と述べていたが、先進国の中で経済成長率が最も悪化したのがわが国日本。2008年末には「年越し派遣村」なるものができ、翌2009年にかけて製造業を中心にリストララッシュとなったことを覚えている人も多いことだろう。当時は筆者の同期、同世代もリストラの渦に巻き込まれた人もいたが、どちらかといえば少数だった気がする。同期、同世代より上の世代がリストラの中心だったからである。当時30歳代であれば、リストラは他人事に思えたかもしれないが、10年という時の経過は本当に残酷である。他人事と思っていたものがリストラ対象世代となり、同期、同世代は中心世代となってしまったことを自覚すべきなのである。全体的、あるいは局地的であったとしても、一度リストラの嵐に巻き込まれれば、自分自身は嵐に抗うことは難しく、流れに任せられる可能性が大きいのである。
定年退職時までリストラは行われず、無事退職できるかもしれないが、もしものリストラを意識するか、しないかでその後が大きく変わってくることだけは確かなようである。
  
老後の準備という面では、iDeCo(個人型確定拠出年金)、つみたてNISAなどもっぱら資産の山を築く方向性が強調されているが、40歳代、50歳代であれば、資産の山だけを強調するのは得策とは言いづらい。収入をどうやって得続けるのか、万一リストラにあった場合、住宅ローンをどう払っていくのか、子どもの教育費をどうするのか等々、キャッシュフローの収支をどうするのかのシミュレーションをしておくべきである。備えあれば憂いなしではないが、時が経過した(歳を重ねた)ときのリスクも頭の片隅に入れておくべきだろう。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2018年06月21日 10:00