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家計ミクロではなくマクロで管理しよう

女性誌を中心とした家計管理の仕事依頼を受けると必ず質問されるのが、食費は収入の何%、貯蓄は収入の何%等々の割合を求められることです。家計の支出を「見える化」する流れからではなく、同様の質問は数十年前から受け続けているので、今に始まったことではありません。各項目を何%と割り振れば、図版を作りやすい、読者にイメージさせやすいなどの利点が想像できますが、筆者はこの質問に対して解答をなるべく控えるようにしています。

解答を控える理由は、何%と割り振りをしてしまうと、家計支出のやり繰りに支障をきたす恐れがあるからです。やり繰りは、支出項目に予算を割り振り、その予算の範囲内で管理することではないのか?と反論を受けそうですが、家計管理は1ヵ月の支出全体、1年の支出全体といった「マクロ」で管理するのが基本と考えています。
キャッシュフローベースで考えて、「年収-支出=年間貯蓄額」という式が成り立てばその内訳は問題ないというわけです。この式による年間貯蓄額を12ヵ月で割り、1ヵ月間の貯蓄額を算出します。そして「月収-月間貯蓄額=1ヵ月の支出」と計算して、各支出の項目に割り振るという管理を行えばベストです。しかしながら、実際の家計管理においては毎月が計算のとおりに行くことは少なく、だからこそ「マクロ」で管理するのです。終わりよければすべて良しの精神です。

各支出項目で変動が大きものの1つに食費があります。前冬も寒波の影響で葉ものを中心に野菜が高騰したのをご記憶でしょう。健康を考えれば、高くても野菜は食べるべきですが、1ヵ月の食費を考えると予算オーバーとなってしまう、すると野菜を食べるのを控えようという行動に出ることが多いのではないでしょうか。食費の予算をオーバーさせないという側面からは正しい行動と言えますが、万が一健康を害してしまったらどうなるでしょうか?食費をオーバーさせる以上に支出が増えることが予測されます。少し野菜を食べないだけで健康を害することはありませんが、このような行動を継続すれば害を及ぼさないとも限らないのです。あるいは冠婚葬祭が入ってしまい、その月の収支は赤字となるケースも起こりえるでしょう。
このような場合は、決められた予算の範囲内に無理に抑えようとせず、食費はオーバーしたけれど、その他の項目の支出を削って1ヵ月の支出全体では予算の範囲内に収める、冠婚葬祭の支出が発生して赤字になってしまったら、年末まで残月の貯蓄額を数千円増やす、あるいはボーナスから貯蓄額を増やしてリカバリーするなどして、当初に立てた年間貯蓄額を確保すればよいのです。

毎月、予算通りにきちんとできればベストですが、予期せぬことで予算通りに行かないことはままあります。そこで家計の収支は、1週間で帳尻を合わせる、1週間が難しければ1ヵ月、1ヵ月が難しければ半年、半年が難しければ1年で合わせるという考え方を持てばよいのです。極端な話、先に述べた「年収-支出=年間貯蓄額」という予算が達成されれば、その間、支出や貯蓄額の内訳にはこだわらなくてもよいということです。計画通りに支出が収まるに越したことはありませんが、年間予算が達成できれば良し程度の感覚で家計管理を行うのがやり繰りするうえで大切なのです。

平時の家計管理ではあまり差はつきませんが、突発的、予想外の事が発生したとき、あるいは緊急対応をしたときなどに差が出ます。四角四面の家計管理ではなく、柔軟な対応ができる家計管理を目指すべきなのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
 
公開日: 2018年07月05日 10:00