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老後の準備は三方よしの精神で
たとえば、iDeCoに毎月2万3,000円を30年間拠出するとしましょう。30年後の元利合計額は、利回り3%=1,334万円、5%=1,883万円、7%=2,705万円、10%=4,785万円になります。これらの金額に加え、iDeCo以外の金融資産と退職金が老後資金になることでしょう。当然ながら、利回りが高くなればなるほど準備できる老後資金は増えることになり、豊かな老後を過ごすことができると考えるはずです。資産という観点から考えるとその通りですが、定年退職時に多額の住宅ローンが残っていて完済年齢が70代後半だったらどうなるでしょう。あるいは、公的年金の支給額があまり多くない(支給額は多いが生活費が高い場合も同様)場合、金融資産からの取崩額が多いことから加速度的に残高は減少していくことでしょう。極端な例かもしれませんが、老後準備として多額の資産を準備できたとしても、一方で住宅ローンを抱えたり、リタイア後も現役時代のような生活を過ごしたりしていれば、いくら資産があっても人生100年時代に対応することは難しいのです。あるいは、たくさんの資産を準備するためにと力が入り、高利回りを期待したハイリスク運用を行いかねないのです。投資に絶対はありませんが、先の利回りの例では10%は非現実的と思われてなりません。逆に言えば、非現実的な高利回りで老後のシミュレーションを行うのは危険極まりないのです。
老後の準備に資産形成を行うことを否定するつもりはありませんが、足下の状況を鑑みると、やや「資産形成しておけば安心」という心持ちが強く出ていることが気になるのです。長期の資産形成を行いながら、他方では住宅ローンなどのマイナスの資産(負債)を早めに片付けておく。公的年金だけで生活をするのは難しいのですから、毎月の生活費も少なくしておくという三方よしの精神で老後の準備をしていくバランスが重要なのです。
もう1つ加えるなら、終身かつ安定したキャッシュフロー(収入)を得られるようにしておくことも大切です。終身で得られるキャッシュフローであれば、公的年金を手厚くすることも考えられます。お勤めの人の厚生年金保険料は、4、5、6月の3ヵ月間に受け取った報酬総額を平均した金額で決まることから、この3ヵ月は残業などを控えようという記事(コラム)を見聞きすることがあります。この記事、眼下の厚生年金保険料を抑えるという側面では一理ありますが、その分将来受け取る年金額も抑えられてしまう側面もあるのです。公的年金が信じられるか、否、きちっと払われるのかという信用面から派生した考え方と思われますが、老後の準備に照らし合わせれば整合性が取れない気がしてなりません。それでiDeCoを限度いっぱい拠出するのも滑稽な気がするのですが・・・。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表