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リタイア層はインカムゲインに着目すべき

今回はリタイア世代の資産運用にフォーカスしてみます。現役世代とリタイア世代の資産運用スタイルの違いは、現役世代は将来に向けて資産の山を築いていくストック重視の運用。一方でリタイア世代は現役時代に築いてきた金融資産を運用しながら取り崩して行く、キャッシュフロー重視の運用を中心にスタイルを据えることになります。
ストック重視の運用では、複利効果を得るために「再投資」が鍵になります。一方、キャッシュフロー重視の運用では、定期的に利息や配当金などを支払ってくれる「利払い」が鍵になります。複利効果はさまざまなところで取り上げられているので、ここからは利払いについて述べていきましょう。

なぜ利払いが鍵になるのかと言えば、リタイア世代は公的年金だけで生活費を賄うことが難しいため、不足分を金融資産の取り崩しなどで補う必要があるからです。もちろん、公的年金の支給額が多く、かつ慎ましやかに過ごされている方などは公的年金だけで生活費を賄えている人もいます。一般的なリタイア世代の例をあげると、総務省が公表している「家計調査報告」によれば、高齢無職世帯(世帯主65歳以上、妻60歳以上の夫婦世帯)の1ヵ月の家計収支はマイナス6万円前後です。このマイナス部分をカバーするために、たとえば金融資産を取り崩しているのです。高金利時代であれば、まとまったお金を国債などに振り向ければ、その利子で不足分のかなりの部分を賄うことができました。しかしながら、足元の超低金利では国債などの利子収入で受け取れる金額は微々たるもの。仮に毎月6万円、年間72万円を国債の利子だけで賄おうとすれば、1億8000万円ものお金が必要になるのです(利率0.05%、税引後、復興特別所得税考慮せず)。1億8000万円もの大金を準備できる方は一握りでしょうから、金融資産の一部で高いインカムゲインが期待できる商品に注目するのです。

インカムゲインに注目する理由はもう1つあります。筆者の経験則だと、リタイア世代であっても株式や投資信託などの売却益を使う人が非常に少ないからです。せっかく投資でお金を増やしたのだから「使ってしまってはもったいない」と考え、全額再投資をしてしまうのです。しかも60歳代ならまだわかりますが、70歳代、80歳代でも売却益を使っているという人に筆者はほとんど会ったことがありません。人生100年時代となったので今使わなくともと・・・と思えなくもないのですが、一方でいったい増やしたお金はいつ使うのか?という疑問も残ります。しかし、定期的に支払われる配当金などは、再投資をせずに使ってしまう人が多いのが実情といえます。
そこで、現役世代に築いてきた金融資産を使うという観点から、リタイア世代はインカムゲインに注目して欲しいのです。築いた金融資産を取り崩すのは後ろめたいが、金融資産から支払われる(利払い)配当金などは後悔なく使えるケースが多いからです。リタイア世代、言い換えれば「老後」は、これまで頑張って築いてきた金融資産を有意義に使う時期。いつまでも再投資に拘っていると使う時期を逸してしまい、何のために金融資産を築いてきたのかわかりません。

金融資産を築くのは「豊かな生活を過ごすため」のはずです。豊かさの度合いは人それぞれですが、リタイア後であれば安心できるお金の利用もその1つと思われます。安心をキーワードにするならば、金融資産の取り崩しよりも、定期的に支払われる配当金等に軍配が上がる気がしてなりません。であれば、リタイア世代は、もう少しインカムゲインに着目した資産運用を行ってもよいはずなのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2018年08月02日 10:00