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住宅ローン金利の低下は期待薄

2018年7月30日~31日の金融政策決定会合で、日本銀行は「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と題して量的・質的金融緩和の内容を修正しました。その政策の詳細を含む全体像はエコノミスト等の専門家に任せるとして、今回はその政策変更が今後の住宅ローンにどのような影響を与えるのかを予測してみたい。

結論から先に述べれば、住宅ローン金利が再び低下することは考えにくいというのが筆者の見立てである。今回の政策のポイントは、「長短金利操作」における上下の金利幅を±0.1%から±0.2%へと2倍に広げたことである。金融政策決定会合当日、日本銀行が公表したペーパーには金利幅を2倍に広げたことは記載されていないが、会合終了後の記者会見時に黒田総裁が「変動幅を2倍にする」と述べたことがその背景にある。
注意したいのが、変動幅を2倍にしたということは、現在の政策金利(無担保コール翌日物)がマイナス0.1%であることから、局面によってはマイナス金利のさらなる深掘り(マイナス0.2%)も理論的にはあり得るのだが、今回の政策変更は銀行等の経営の側面支援と言われている。簡単に言えば、短期金利と長期金利の差がほとんど無くなり(時に逆サヤ)、銀行が預貸利ザヤを稼げないことがその背景にある。つまり政策変更の背景を考えれば、マイナス金利幅の深堀りを日本銀行が容認し、結果として長期金利も連れて低下してしまうと、政策変更の意味がなくなってしまうことになる。理想は、短期金利は政策金利のマイナス0.1%近辺のまま、長期金利だけが上昇して長短金利の差が開くことだが、上昇すると言っても容認できるのはプラス0.2%近辺までとしているのが今回の政策変更の肝になる。

このような背景を考えると、今後の住宅ローン金利はどうなって行くのだろうか。今回は政策の変更が7月末だったことから、8月の住宅ローン金利は一部の銀行が引き上げたに過ぎず、「フラット35」の金利(最低金利)も7月の金利と変わることはなかった。しかし、長期金利は政策変更に伴い明らかに政策変更前よりも上昇、かつ上昇した水準で横ばいとなっている。とすれば、9月以降の住宅ローン金利は8月の金利よりも上昇すると考えるのが自然であろう。
誤解なきよう言っておくと、住宅ローン金利が上昇するとしても、その上昇幅はせいぜい0.10%前後に過ぎないと思われてならない。また、短期から長期まで全ての期間の住宅ローン金利が上昇するのではなく、主に長期固定が中心に上昇するだろう。具体的にはフラット35を始めとする全期間固定型、固定金利選択型であれば10年固定以上の長期固定がその対象になるだろう。銀行によっては5年や7年の固定型も引き上げの対象になる可能性があるかもしれない。反面、短期金利は動いていないことから、2年や3年の短期固定型、変動金利型の金利が引き上げられることはないだろうが、銀行によっては戦略的に短期固定型も見直しの対象に入れたり、優遇金利の優遇幅の見直しを行ってくる可能性があることは頭の片隅に入れておくべきだろう。

今回の日本銀行の金融政策は玉虫色の政策変更と言われているが、低金利を持続するとはいえ、昨年、一昨年よりも長期金利の水準が引き上げられていることは確かだ。わが国の景気が後退、あるいは大幅な円高にでも進まない限り、日本銀行が再び金融緩和のアクセルを踏み込む可能性は低い。言い換えれば、再び金利が低下して行くことも考えにくいことから、住宅ローン金利も同様に低下するとは考えにくいだろう。もちろん、長期金利の動きによって前月より引き下げられることもあるが、それは誤差の範囲と考えるべきだ。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2018年09月06日 10:00