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節約に励むのもいいが、今しかできないイベントもある
とはいえ、現役世代は思っているほど収入が増えず、同様にリタイア世代の年金受給額も物価の上昇ほど増えてはいません。節約に励むなどして老後のための資金を捻出して、積立貯蓄や積立投資、あるいは個人年金保険などに加入してコツコツと準備を進めていくわけです。節約などを含めた家計のやり繰りで資金を捻出するのは至極もっともな方法と言えますが、その老後資金の準備、あまりにも遠い将来のライフイベントを優先しすぎていないでしょうか。今しかできないライフイベントを疎かに(節約の対象に)していませんか?と問いたいのです。
たとえば「家族旅行」。家庭によってそれぞれだと思われますが、子どもが成長するに従い家族全員が揃って旅行に出かける機会は少なくなるはずです。子どもが小学校までは家族全員でと思われますが、中学校、高校へと進学するにつれ、旅行に行く人が1人抜け、2人抜け・・・となり、気がついたときには夫婦旅行になっているということもあるでしょう。家族での想い出を作ろうと思ったときには、既に子どもは一緒について来てくれないのです。子どもの成長は早いうえ、大きくなるにつれて一緒の旅行などの機会が減るならば、最も遠いライフステージとなる老後の準備にためにせっせと節約などに励むよりも、節約の手を緩めて想い出作りにお金を使って見てはいかがでしょうか。毎月の支出から捻出するのが難しいようであれば、夏冬のボーナスから旅行資金を捻出するのでも構いません。子どもと家族旅行一緒に行ける期間は、実は以外と短いものなのです。楽しい想い出は老後になっても色褪せませんが、楽しい想い出がないと老後の後悔はより大きなものになってしまうかもしれないのです。
老後になればまた子どもが旅行に一緒に(女性に多いようです)行ってくれるようになるのですが、既に子どもは成人となっているのです。それはそれで楽しいかも知れませんが、子どもの成長過程で行った家族旅行は別格という声が多いのも事実なのです。老後の準備は必要ですが、現在の楽しみとして「家族旅行費」は節約の対象外(聖域)として常に残して、毎年の想い出作りとすべきでしょう。
家族旅行といえば、リタイア後の旅行についても一言申し上げておくことにしましょう。リタイア後にやってみたいことを見聞きすると圧倒的に多いのが「旅行」です。現役世代の想い出作りの旅行とはやや趣が異なり、時間がたくさんある分、現役時代に行けなかった旅行を実現させたいケースが多いようです。もちろん、子ども、あるいはお孫さんを連れた二世代、三世代の家族旅行という案もありますが、ここではそのような家族旅行はあえて外させていただきます。たとえば、世界遺産を巡る旅行です。ペルーの「マチュピチュ遺跡」、エジプトの「ギザの三大ピラミッド」など有名なものがたくさんありますが、それらへ行く旅行をイメージされてください。国内であれば「春夏秋冬」を巡る旅行などもその範疇に入るかもしれません。これらの旅行は、老後資金に余裕があったとしてもリタイア後の早い時期に行くことをお勧めします。なぜなら、歳を重ねるごとに気力や体力が衰えていまい、歳を重ねれば重ねるほど行ける確率が低下していくことになるからです。
今の高齢者は元気と言われますが、自分が必ず歳を重ねても元気な高齢者であるとは限りません。平均寿命と健康寿命の間には、男性で約8年、女性で約12年(2016年厚生労働省調べ)あるのです。つまり、歳を重ねるほど資金面ではなく、気力体力面がついて行かず世界遺産巡りなどに行けなくなってしまうのです。二世代、三世代の家族旅行は体力が低下しつつある当たりから充実させても大丈夫でしょうが、リタイア後は、思い立ったが吉日と考えて現役時代に出来なかったことを実現させるべきなのです。
何歳まで生きるかを自分でコントロールすることはできないため、いつの時代も無駄遣いはよくありませんが、少なくとも現役世代よりもリタイア世代はお金を使うこと、言い換えれば金融資産を取り崩すことにためらったり、躊躇したりはお勧めしません。ためらい・躊躇をしてしまうと現役時代に頑張って準備してきた老後資金が宝の持ち腐れになってしまい兼ねないからです。現役世代、リタイア世代共に、節約なども大切ですが「今しか出来ないイベントにはお金を使う」というバランス感覚を持つことが、豊かな生活を過ごす鍵になると思えてならないのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表