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相続への備えが変わる?法律改正の影響
今回の改正では、(1)配偶者居住権の創設、(2)配偶者に生前贈与された自宅等の遺産分割の計算から除外、(3)自筆証書遺言の保管制度の創設、(4)相続人以外の「貢献」に対する考慮、(5)故人の預貯金の仮払い制度の創設などが定められました。そのうち(1)と(3)についてご紹介します。
■所有権とは別の「居住権」という概念
まず、(1)に関して、「所有権」とは別に「居住権」という概念が認められます。
これにより、配偶者は自宅に住み続けることが可能になると同時に、自宅以外の財産をより多く取得できるようになります。
例えば、配偶者と2人の子が相続人となるケースで、自宅等の不動産の評価額が2,000万円あり、その他の預貯金が3,000万円だったとします。
話し合いがまとまれば財産の分け方は自由ですが、法定相続分を基準にすると、財産全体(5,000万円)の2分の1、すなわち2,500万円が配偶者の権利です。
住んでいる自宅不動産を配偶者が引き継ぐと、それだけで2,000万円の財産を取得したことになるため、預貯金等は500万円しか受け取れないことになってしまいます。
自宅は財産価値こそあるものの、もとの家にそのまま住んでいる配偶者からすると、「預貯金等の大半を受け取れなかった」という感覚になるでしょうし、実際に生活の安定を脅かす可能性があります。
そこで、所有権は他の相続人に渡す一方で、配偶者は居住権だけを得るという選択肢ができるようになりました。
仮に「居住権」の評価額が1,000万円とされた場合、実際に住み続けるのは配偶者であっても、取得した財産は1,000万円のため、預貯金等を1,500万円受け取れるのです。
この配偶者居住権は、遺産分割協議による合意によって設定することができるほか、被相続人が遺言によって設定することも可能です。なお、配偶者居住権は登記できるため、所有者が変わったとしても、新たな所有者に対抗でき、原則として亡くなるまで住み続けることができます。
■自筆証書遺言のデメリットの解消
(3)は自筆証書遺言に関する新たなルールの創設です。
これまで、遺言書を確実に残すためには、公証役場で作成してもらう、公正証書遺言の活用が不可欠でしたが、手数料がかかるほか、作成時には2人以上の証人が必要であるため、
ハードルが高いとされてきました。
一方、自筆証書遺言は自分一人で費用もかけずに手軽に作れる反面、様式を間違えると法律上無効となる、紛失や改ざんの心配がある、発見されない可能性がある、検認手続きが必要である、というデメリットがありました。
今回の改正法では、自筆証書遺言の様式が緩和されました。これまでは遺言者が遺言の全文、日付、氏名等を自書し、押印しなければ、法的な効力がなかったのですが、財産の一覧表(財産目録)については、手書きではなく、パソコン等で作成してもよいことになりました。
銀行口座や不動産が複数ある場合、高齢の方がそのすべてを一覧表として手書きすることは困難かもしれませんが、信頼のおける家族等にパソコンで作成してもらえるようになると、負担軽減になるでしょう。なお、財産一覧表は印刷し、そのすべてのページに自署が必要となる点は注意を要します。
また、自筆証書遺言を公的機関である全国の法務局で保管する制度が始まります。これは民法ではなく、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という別の法律に規定されるものです。これによって、紛失や改ざんの心配もなくなるほか、遺言があるかどうかを簡単に調べられるようになるため、「せっかく書いた遺言書が発見されない」という事態も防ぐことができるでしょう。なお、法務局に保管された自筆証書遺言については、検認手続きが不要となります。
ようするに、これまで自筆証書遺言のデメリットとされていた大部分が、今回の改正によって無くなったのです。
■元気なうちに考えておく
高齢化が進む日本では、1年間に亡くなる人の数も毎年増加しています。相続の話題は、家族といえどもなかなか切り出しにくいものですが、事前準備の有無によって、遺された家族の負担が大きく変わるものです。だからこそ、元気なうちに考え、各種の制度を上手に活用したいものです。
栗本 大介(くりもと だいすけ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
株式会社エフピーオアシス 代表取締役