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今さら聞けない「免疫チェックポイント阻害剤」って何?

今年のノーベル賞の日本人受賞者となられたのは、京都大学特別教授の本庶佑先生。米国のジェームズ・アリソン先生とともにノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
報道によると、本庶先生は、長年免疫療法の研究に従事され、免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ(商品名オプジーボ)の開発にも多大な貢献されたといいます。
これを受けて、各種メディアでは「免疫チェックポイント阻害剤とは?」「オプジーボとは?」などの特集が組まれ、医療機関には、オプジーボで治療を受けたいと希望する患者さんからの問い合わせが殺到していると聞いています。

さて、本庶先生のノーベル賞受賞効果で、注目が高まっていますが、免疫療法は、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、ホルモン剤など)のいわゆるがんの3大治療に続く、「第4の治療法」と言われてきました。
そもそも「免疫」とは、病気などを引き起こす細菌やウイルス、がん細胞などの異物からカラダを守るしくみのこと。
「免疫療法というのは、私たちが生来持っている免疫力を使って何か治療をするのだろう」と漠然とわかっていても、免疫療法を正しく理解している方は少ないように感じます。それどころか、過剰な期待を寄せたり、大きく誤解されたりするケースもあるようです。

FPは医療者ではありませんので、免疫療法の医学的意義云々を論じることはできません。しかし、免疫療法のうち、先進医療として認められているものも含めて、公的医療保険が適用されている治療法はごく一部。その多くが自由診療で、効果が科学的に立証されていないにも関わらず、高額な費用がかかるという点は見過ごせません。免疫チェックポイント阻害剤への注目が高まる今、がんの免疫療法への理解を深めていただきたいのです。

まず、「がんの免疫療法とは何か」について。
私が免疫療法を説明する際によく使う「アクセル」と「ブレーキ」を例に挙げてご紹介しましょう。
がんの免疫療法は、大別すると2つに分類できます。
1つ目は「がんに対する免疫をアップする物質や細胞を投与する(=アクセルを踏む)」方法で、2つ目は「がんによる免疫の抑制を解除する(=ブレーキを外す)」方法です。
さらに、前者は、体内で免疫を増強する方法(がんワクチン療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法など)と体外で増強した免疫細胞や抗体を入れる方法(養子免疫療法、抗体療法など)の2つに分けられます。
そして、後者に該当するのが、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害療法です。
「がんによる免疫の抑制を解除」とはどういうことかといえば、実は、がんになると、再発・転移しないように免疫力をアップさせたい所なのですが、逆に、体内にできたがん細胞をやっつける免疫にブレーキがかかってしまうというのです!(免疫が過剰に働かないように制御するしくみが強まるらしい)。
そこで、免疫細胞やがん細胞の表面にある免疫にブレーキをかける過程で‘チェックポイント’となる分子に働きかけ、免疫のブレーキを解除して、再び免疫が活性化してがん細胞をやっつけてくれるようにするのが免疫チェックポイント阻害療法のしくみです。
このように免疫のブレーキを外して、結果的に体内の免疫を強める免疫チェックポイント阻害療法は、ここ数年、世界中で次々と治療薬が承認されています。
日本でも、オプジーボ以外に、キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)、テセントリク(一般名アテゾリズマブ)、ヤーボイ(一般名イピリムマブ)、(商品名)、イミフィンジ(一般名デュルバルマブ)などが、立て続けに商品化されています。
このうち、安定的な効果があり、適応範囲が拡大しているのが「オプジーボ」であり、それに続いているのが「キイトルーダ」といった感じでしょうか。

そこで肝心な有効性と費用負担についてです。
現在のところ、これらの免疫療法のうち、効果や安全性が確立されているものは、一部のがん種に対するサイトカイン療法や免疫賦活薬、免疫チェックポイント阻害剤に限られています。がんワクチン療法や免疫細胞療法の安全性や有効性は確立されておらず、標準治療とは認められていません。
なお、「有効と認められるか」のポイントは次の3つです。
(1)延命効果が期待できる
(2)治癒が期待できる
(3)症状の緩和や生活の質(QOL)の改善が期待できる

また、安全性と有効性が認められている免疫チェックポイント阻害剤の保険適用についても、例えば、オプジーボの場合、悪性黒色腫(メラノーマ、皮膚がんの一種)、肺がん(非小細胞、二次治療からのみ使用可能)、腎細胞がん、頭頸部がん(舌がん、咽頭がんなど)、ホジキンリンパ腫、胃がん(切除不能なものに限る)。キイトルーダの場合、悪性黒色腫、非小細胞肺がんのみです(2018年10月18日時点)。
保険適用になるということは、高額療養費制度や健康保険組合の付加給付の対象となりますので、いくら高額でも費用負担は軽減できるでしょう。ただし以前から、エビデンスが立証されていない、がん種への治療を行っている医療機関もあり問題視されています。
当然、費用は全額自己負担で数百万円~数千万円単位にのぼり、そもそもエビデンスがないので、効果がないのに患者の希望で延々と治療を続けるそうです。
患者は、「高額な治療=素晴らしい治療」という思い込みは捨て、その治療から得られる費用と効果を見極める目が必要な時代になってきたということです。
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
公開日: 2018年11月01日 10:00