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新型コロナウイルス感染症が家計に及ぼす影響

2021年2月、総務省統計局の家計調査年報(家計収支編)の最新版(2020年分)が公表されました。2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に見舞われた一年でしたが、その影響が統計にも如実に表れています。新型コロナウイルス感染症は、わが国の家計にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

■世帯主収入の減少を「特別定額給付金」が補う
2人以上の勤労者世帯における2020年の実収入(世帯全員の税込み収入)は、月平均で609,535円と前年比で4.0%増加しました。2020年5月から国民に一律10万円の「特別定額給付金」が支給されたことから、「その他特別収入」が月平均で28,113円(前年比346.9%増)と大幅に増加しており、世帯主収入の落ち込み(前年比1.5%減)を特別定額給付金が補う形となりました。

■支出は「旅行」「交際費」「外食」等の減少が際立つ
2人以上の勤労者世帯における2020年の消費支出は月平均で305,811円と、前年比で5.6%減少しました。支出を品目別にみると、宿泊料やパック旅行費等の「教養娯楽サービス」が前年比29.1%の減少、「交際費」が同21.7%の減少、「外食」が同21.6%の減少など、感染予防のための外出自粛の影響を受けた品目が大きく落ち込んでいます。
その一方で、支出が増えた品目もあります。自宅で過ごす時間が増えたことにより、食費の中でも酒類(前年比23.1%増)・麺類(同20.9%増)・肉類(同14.1%増)・生鮮野菜(同13.6%増)などは支出が増えているほか、家具・家事用品(前年比10.6%増)に係る支出も増加しています。また、抗菌・除菌グッズへのニーズの高まりにより、保健医療用品・器具(前年比29.3%増)への支出が急増しています。

■家計収支の黒字は増えるも、大半が貯蓄に回る
2人以上の勤労者世帯における2020年の可処分所得は月平均で498,639円となり、前年比で4.6%増加しました。ただし、収入が増えた一方で支出は減少したことから、可処分所得に対する消費支出の割合である消費性向は61.3%(前年比6.6ポイント減)となっています。つまり、一般的な家計においては、特別定額給付金は消費支出ではなく不意の出費への備えとして貯蓄されている実態が見えてきます。

■老後に必要な金額は2,000万円から「55万円」に急減!?
以前のコラム(※1)で、「老後資金に必要な金額は2,000万円から1,200万円に減少した」と述べましたが、最新の統計では更にショッキングな結果が出ました。
2020年の高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の状況を見ると、実収入が257,763円と前年から約2万円増加した一方、実支出が259,304円と前年から約1万円減少したため、家計収支(赤字)は前年の33,269円から1,541円へと大幅に減少しました。その結果、30年分の赤字額の累積は約55万円(=1,541円×12月×30年)となり、老後に必要な金額とやらはわずか3年で2,000万円から55万円まで急減した計算になります。「公的年金とは別に●千万円の老後資産が必要」という主張を妄信してはいけないことが、今回の家計調査の公表によって更に明確になったと言えるでしょう。

<高齢夫婦無職世帯の家計収支の推移>
2019年 (1)237,659円 (2)270,929円 (3)▲33,269円 (4)▲1,198万円
2020年 (1)257,763円 (2)259,304円 (3)▲1,541円 (4)▲55.5万円

1) 数値の根拠は以下の通り
  (1)実収入額(月次)
  (2)実支出額(月次)
  (3)収支(=(1)-(2))
  (4)30年分の収支(=(3)×12月×30年)
2) 集計の関係上、各項目の合計値が必ずしも一致しない場合がある
(出所)総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)」各年版を基に筆者作成


(※1)去年は2,000万円、今年は1,200万円!?(2020年7月16日上程)
  https://fpi-j.tv/announce/188
谷内 陽一(たにうち よういち)
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)
DCアドバイザー、1級DCプランナー
公開日: 2021年03月25日 10:00