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FPのためのリスク・マネジメント論(その3):リスクコントロール
1. リスク・コントロールとは
リスク・コントロール(risk control)とは、リスクの発生を未然に防止・抑制したり、あるいは万一発生したリスクによって生じる損害を最小化したりするための手法をいいます。リスク・コントロールの手法には、回避、損失制御、結合、分散、転嫁などがあります。
2. 回避
リスクの回避(avoidance)とは、文字通り、リスクを伴う活動を回避、中止あるいは撤退することをいいます。例えば、鉄道の踏切事故を回避するために、線路の高架化・地下化や、あるいは鉄道事業からの撤退を行うものです。
しかし、リスクを回避するために何らかの代替手段を取る場合、新たなリスクを抱え込む可能性に注意しなければなりません。例えば、前述の線路の高架化・地下化は、工事に莫大なコストを要するほか、列車が緊急停止した際の乗客の避難誘導が困難になるという新たなリスクを負います。また、鉄道事業からの撤退は、当該事業から得られる利益の放棄を意味します。リスク回避は、単純明快ですが消極的な手法であり、リスクに見合ったリターンを追求する企業活動には適切ではない場合も少なくありません。
3. 損失制御(ロス・コントロール)
損失制御(loss control)には、リスクの頻度(発生確率)を減少させる「損失防止」と、リスクの強度(損害・損失)を減少させる「損失軽減」の2種類があります。
損失防止(loss prevention)は、リスクの発生を事前に予防するための対策をいいます。損失防止の手段は、物的手段(例:梱包による商品の破損防止)と人的手段(安全管理、定期点検、避難訓練など)に大きく分かれます。
損失軽減(loss reduction)は、リスクが顕在化した際に生じる損害・損失を軽減・最小化するための対策をいいます。例えば、火災発生に備えた消火設備(消化器、スプリンクラー等)の設置や、大地震に備えた耐震補強・家具固定等の措置が挙げられます。
4. 結合
リスクの結合(combination)とは、リスクの集積によりリスクの不確実性を低減させ、損失の発生確率を安定させることをいいます。例えば、保険会社は大数の法則に基づき、契約件数を集めて同質のリスクを保有する保険集団を形成することで、損失の発生確率の安定に努めています。また、企業が経営効率を高めるため、管理部門(総務・人事・経理等)を同じ建物の同じフロアに集めたり、子会社化あるは合併したりすることも、広い意味では「結合」に該当します。
5. 分散
リスクの分散(segregation)とは、リスクの分離あるいは細分化によって、リスクが顕在化した際に生じる損害・損失を軽減・最小化することをいいます。例えば、工場を一箇所に集中するのではなく複数の異なる場所に建設することで、地震や火災が発生しても全ての工場が被災・損壊するリスクを減少させられます。また、「卵を一つのカゴに盛るな」という資産運用の有名な格言は、複数の銘柄を幅広く保有する分散投資の重要性を説いたものです。
6. 転嫁(リスク・コントロール型)
リスクの転嫁(transfer)とは、契約を通じて財産、行為、賠償責任のリスクを他者に転嫁することをいいます。代表的なものとして、リース契約や業務の外部委託などが挙げられます。
以上、今回はリスク・コントロールの各手法について解説しました。実際のリスク・マネジメントにおいては、リスク・コントロールの中から一つの手段のみを選択するのではなく、リスク・コントロールの他の手法あるいはリスク・ファイナンシングの各手法の中から複数の手段・手法を組み合わせて選択・実施するのが一般的です。
次回は、もう一つのリスク対応手段である「リスク・ファイナンシング」について解説します。
<FPのためのリスク・マネジメント論>
その1:リスクの定義・分類・構造
https://fpi-j.tv/announce/244
その2:プロセス
https://fpi-j.tv/announce/253
谷内 陽一(たにうち よういち)
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)
DCアドバイザー、1級DCプランナー