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私的年金の制度改正動向(その2):確定拠出年金の改正
前回のコラム(※1)では、確定給付企業年金(DB)等の改正動向を中心に解説しました。今回は、企業型確定拠出年金(企業型DC)および個人型確定拠出年金(iDeCo)の改正動向について取り上げます。
■iDeCoの加入可能年齢の引上げ
iDeCoの現行の加入可能年齢は、第1号加入者(自営業者等)および第3号加入者(専業主婦(夫)等)が60歳未満まで、第2号加入者(会社員・公務員等)および第4号加入者(任意加入被保険者等)が65歳未満までとされています。2022年11月公表の「資産所得倍増プラン」では、iDeCoの加入可能年齢を70歳未満まで引き上げることが提唱されましたが、そのためには、現行のiDeCoの加入要件(国民年金の被保険者であること)とどう整合させるかが課題でした。
最終的には、現行の加入要件に加えて、60歳から70歳までのiDeCoを活用した老後の資産形成を継続しようとする者(iDeCoの加入者・運用指図者であった者および企業型DC等の私的年金の資産をiDeCoに移換する者であって、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していない者)に加入・継続拠出を認めるという形で、iDeCoの加入可能年齢の70歳未満への引上げが実施される見込みです。
■iDeCoの受給開始可能年齢の引上げは見送りに
前出の資産所得倍増プランではiDeCoの加入可能年齢だけでなく受給開始可能年齢の引上げも提唱されていました。しかし、iDeCoの受給開始可能年齢は、前回の法改正により2022年4月に70歳から75歳へ引上げられたばかりであり、75歳から受給を開始する者が生じるのは2027年4月以降となります。そのため、現時点では具体的なニーズや実務上の課題が把握できないとの判断から、今回の改正は見送られ、今後の状況を踏まえて検討することとされました。
■企業型DCおよびiDeCoの拠出限度額の引上げ
企業型DC(企業型確定拠出年金)およびiDeCoの拠出限度額については、「令和7年度税制改正大綱」(2024年12月20日公表、同月27日閣議決定)において税制上の措置が講じられたことから、下記の通り引き上げられる見込みです。
<企業型DC>
・企業型DCのみに加入: 月額6.2万円
・企業型DCおよびDB等に加入: 月額6.2万円-他制度掛金相当額
<iDeCo>
・第1号加入者(自営業者等): 月額7.5万円
・第2号加入者(会社員・公務員等)企業年金に加入せず: 月額6.2万円
・第2号加入者(会社員・公務員等)企業年金に加入: 月額6.2万円-企業年金の掛金額
・60歳から70歳までの加入・拠出継続者: 月額6.2万円
■マッチング拠出の労使折半制限の廃止
企業型DCのマッチング拠出(企業型年金加入者掛金)には、「事業主掛金と加入者掛金の総額が拠出限度額を超えないこと」および「加入者掛金の額が事業主掛金の額を超えないこと(労使折半制限)」という2つの要件があるが、今般、このうち後者の要件を廃止・撤廃することが見込まれています。これにより、マッチング拠出の拠出可能額は「月額6.2万円-事業主掛金の額」と大幅に拡充します。
■簡易型DCの廃止
簡易型DC(簡易企業型年金)は中堅・中小企業向けの制度として2018年5月に施行されましたが、現時点まで導入実績が皆無であるため、廃止(通常の企業型DCに統合)される見込みです。なお、簡易型DCに適用されていた手続きの簡素化措置の一部は、通常の企業型DCに今後適用される見込みです。
■iDeCo+の人数要件の拡大等は見送りに
企業年金を実施していない従業員300人以下の企業が対象のiDeCo+(イデコプラス:中小事業主掛金納付制度)について、人数要件の更なる拡大やDBとの併用解禁が企業年金・個人年金部会で検討されました。結果的には、企業のニーズも踏まえつつ慎重に検討すべきとの観点から、今回の改正では見送られる模様です。
■企業型DCの資産運用の「見える化」
2023年12月公表の「資産運用立国実現プラン」では、企業年金(DBおよび企業型DC)の資産運用について「他社と比較できる見える化」を提唱しています。これを受けて、企業型DCの資産運用状況について、実施事業主等が厚生労働省へ提出する各種報告書の項目をベースに、厚生労働省が情報を集約し、事業主・規約・運営管理機関別に名称が分かる形で一般に公開を行う見込みです。
併せて、企業型DCの運用の方法の一覧(ユニバース)の掲載方法の改善を促す取組も行われる見込みです。
■老齢給付金を一時金で受給する際の退職所得控除の取扱い
退職所得については、前年以前4年内に他の退職手当等の支払を受けている場合には、退職所得控除額の計算において勤続期間等の重複を排除(過去に支払を受けた退職手当等と退職所得控除の枠を共有)する取扱いになっています。今般、過去に確定拠出年金の老齢給付金を一時金として支払を受けている場合には、前述の前年以前4年内を「前年以前9年内」と読み替えて勤続期間等の重複を排除する税制改正が行われる見込みです(2026(令和8)年分の所得から実施)。
この改正は、SNSを中心に「制度の改悪だ」と大きく取り沙汰されましたが、令和7年度税制改正大綱では、「包括的所得課税の下では、拠出時に所得控除の対象とされる、私的年金を含む年金については、給付時において相応の課税がなされることが原則と考えられる」と明記されていることから、給付時課税の徹底を企図したものと推察されます。
■その他
確定拠出年金の環境整備のためのその他の施策として、下記の施策の実施が見込まれています。
・手続きの簡素化: 関連手続のオンライン化・デジタル化 など
・広報等による普及促進: 金融経済教育推進機構(J-FLEC)との連携 など
・継続投資教育の充実: 好事例の収集・横展開、J-FLECとの連携 など
・指定運用方法: 適切な情報提供、継続投資教育等を通じた理解向上 など
・自動移換: 継続的な説明の実施、自動移換の状況の見える化 など
・DCの中途引出し(脱退一時金): 通算拠出期間に係る要件の緩和(5年→8年)
(※1)私的年金の制度改正動向(その1):確定給付企業年金等の改正(2025.2.6上程)
https://fpi-j.tv/announce/424
社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理(厚生労働省Webサイト)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48235.html
令和7年度税制改正大綱(自由民主党Webサイト)
https://www.jimin.jp/news/policy/209630.html
資産所得倍増プラン(内閣官房Webサイト)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/dabiplan2022.pdf
資産運用立国実現プラン(内閣官房Webサイト)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/sisanunyou_torimatome/plan.pdf
谷内 陽一(たにうち よういち)
名古屋経済大学 経済学部 教授
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)